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OTのスゴ技(作業療法士)運転支援は、生活支援。クルマが、その人の世界を広げる

 事故や病気で身体機能や認知機能に障害が残った人たちにとって、以前のように自動車が運転できるようになるかどうかは、その後の生活スタイルに大きく影響を与える、切実な問題だ。静岡県伊豆市にある「中伊豆リハビリテーションセンター」では、主に脊髄損傷や脳障害によって障害を受けた人たちを対象に、自動車の運転ができるようになるための支援を行っている。施設内には運転シミュレーターがあるだけでなく、実際に自動車を運転できるコースも設けられている。運転コースがある施設は全国でも珍しいという。中伊豆リハビリテーションセンターの作業療法士である生田純一さんに話を聞いた。

運転支援は、生活支援。クルマが、その人の世界を広げる

 「自動車の運転は『移動支援』の枠組みの中で行われます。医師、作業療法士、理学療法士が中心となりますが、障害の状況によっては言語聴覚士、薬剤師、看護師が加わったチームで支援にあたります」。その時に大切なのが、作業療法士の視点なのだという。「運転は、生活の一部なのです」。たとえば脊髄損傷で下肢が不自由になった人の場合、アクセルやブレーキなど足で行っていた操作を手で行うことになるため、ある程度の慣れが必要だという。しかしそのことよりも、車いすからどうやって運転席に乗り移り、また移動先で運転席から車いすに乗り移ることの方が難しいことが多い。

 現在、中伊豆リハビリテーションセンターに勤務する志子田(しこた)正哉さんも、ここでの移動支援を受けた一人だ。志子田さんは、25歳の時に、脊髄腫瘍のために下肢が不自由になった。社会復帰をするにあたって車の運転が必要だと思い、中伊豆リハビリテーションセンターでリハビリテーションをすることになったという。「もともと車は好きでよく運転していましたから、手だけでの運転は、シミュレーターで、比較的容易におぼえることができました」。当時の担当だった生田さんも、課題は「乗り移り」だったと振り返る。「車いすから運転席に乗り移るのは、ベッドから車いすへの移乗とは、また別の難しさがありました」と志子田さん。生田さんと一緒に、板を使って乗り移りの練習をしたり、車に乗る際に使用する車いすのタイプを試したり、車いすの積み込みの方法を検討したりしながら、最終的には生田さんとも相談し、病気になる前に乗っていたワゴンタイプの車を軽自動車に変えることで、自分一人で車に乗り、目的地まで運転をし、降りることができるようになった。今では通勤のほか、買い物などでも運転し、走行距離は年に5000キロほどになるという。

 志子田さんの事例のほかにも、たとえば右半身にまひが残る人の場合、駐車場の出入り口でカードやお金を料金支払機に入れることが難しくなってしまった人に対して、カードやお金を一時的に挟んでおくクリップをつけることで、左手だけで駐車や支払いの手続きができるようにしたこともある。いずれの場合でも、「自動車の運転」が、単に車を走らせ、停めるだけでなく、さまざまな行為がついてまわる、まさに「生活の一部」であることを示している。そこに作業療法士が関与する意味がある。

運転支援は、生活支援。クルマが、その人の世界を広げる

 また、「移動支援」の名が示す通り、「自動車の運転」だけを目的とするのではなく、あくまでその人の「移動」を支援するという考え方が必要だと生田さんは言う。「都市部は、公共交通機関を利用しやすい環境にあるかもしれませんが、伊豆のように交通機関の限られる地方では、自動車が使えるか使えないかで、行動範囲や生活のスタイルに大きな違いが生まれます。ですから、地方での移動支援では、自動車運転の支援が中心となることが多いです。しかしその時でも、まずはその人の生活に適応した移動の手段を一緒に考えることからはじめます」。障害の程度や種類によって、支援を尽くしても運転が困難なこともある。そんな場合でも、なぜ運転が必要なのかを知っていれば、代替方法を提案できる場合がある、という。

 「例えば、復職先の職場との調整を行うことで、自宅近くの職場に転勤し、運転が必要なくなった、というケースもあります。ほかにも、料理をつくることが好きで、車で買い物に行きたいという人には、配達サービスを活用することを提案したこともあります。また家族や友人に協力を要請したり、近距離であれば、シニアカーでの移動に切り替えることを提案したりもします」。

 「地方においては、退院後の生活を向上させ、生活の範囲を広げるためには、車が使えるということはとても重要です。だから、運転支援に作業療法士がかかわるということは、その人の『生活』にかかわることだといつも意識しながら、支援しています」と生田さん。その反面で、運転は社会的な責任を伴う行為でもある。時には医師の判断により、「あなたには運転は無理です」と生田さんから伝えなければいけないこともある。「重い判断ですが、運転が難しいようならきちんと見極めて、代替の手段を一緒に考えるのも、私たちの大事な仕事です。運転はできません、で終わるのではなく、どんな状況からでも少しでもその人が希望する生活を送れるように知恵を絞るのが、作業療法士の役目だと思っています」。

■施設情報
農協共済 中伊豆リハビリテーションセンター
〒410-2507 静岡県伊豆市冷川1523-108
電話:0558-83-2194

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