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作業療法士ってどんな仕事?

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はたらくことは、いきることいきいきと暮らすための服づくり

三井会神代病院・恒松伴典さん、一般社団法人服は着る薬・鶴丸礼子さん

 自分の身を守ると同時に、自分を表現する「道具」でもある服。一番身近で、一番長く生活をともにするものであり、その人の生活の質を左右することもあるが、その重要性はなかなか認識されていない。障害のある人の服作りに取り組む一般社団法人「服は着る薬」代表・鶴丸礼子さんと、鶴丸さんの活動に作業療法士の視点で関わる、恒松伴典さんを追った。

いきいきと暮らすための服づくり

 作業療法士・恒松伴典さんは、医療法人三井会神代病院(福岡県久留米市)のデイサービスで働く傍らで、障害のある人の服作りに取り組んでいる。「卒論のテーマもユニバーサルファッションにしたというくらい、以前から服飾と人の体との関係に興味がありました。考えてみれば、日々の生活の中で一番長い時間ともに過ごしているのが服です。実習のときにも、服が人を元気づける様子を見てきましたので、作業療法士として、服をテーマにした活動をしたいと思ってきました」。

 卒業してからおよそ5年間、障害のある人の洋服をリフォームする活動をしていたが、ある時、鶴丸礼子さんの作る服と出会った。鶴丸さんは、障害のある人たちの洋服作りを行う一般社団法人「服は着る薬」の代表だ。海外の高級ファッションブランドでデザイナーとしての経験を積んだ後に独立、どんな体形の人でもそれにあった形の洋服を作ることのできる「鶴丸メソッド」を独自に編み出したことで知られる。「鶴丸メソッド」を使えば、体の46箇所を測ることで、どんなに歪みがある体にもフィットする服をつくることができる。下肢障害があり車いす生活の人や、片麻痺があって杖をついている人など、障害のある方が、鶴丸さんに服を作って欲しいと依頼する。「骨盤がない方にズボンをつくったこともあります。自分はズボンを履くことができないと思っていた、と、大変に喜んでくれました」と鶴丸さん。鶴丸さんのファッションショーを見た恒松さんは、自ら弟子入りを志願、2年間鶴丸さんのもとで学び、「鶴丸メソッド」を身につけた作業療法士として活動をはじめた。

 恒松さんが手がけた事例はいくつもあるが、たとえば若い時に脳卒中になり、左半身に麻痺が残った50代の女性の事例などが印象に残っているという。服を作る前、この女性に話を聞くと、日常生活の中で着ることのできる外出着と、冠婚葬祭用の服を必要としていることがわかった。「どんな服を着ることができるのか、ではなく、どんな服が着たいのか、からはじめることにしています。着たい服じゃないと、作っても意味がない」。そこで恒松さんは、外出着として白、冠婚葬祭用として黒の2種類の服をつくることにした。採寸してみると、麻痺の残る左腕は、右腕に比べると少し下がっていることがわかったので、左右の袖の長さを変えた。また、片麻痺があっても1人で脱ぎ着がしやすいように、左肩と右裾にファスナーをつけた。

片麻痺があっても1人で脱ぎ着がしやすいように、左肩と右裾にファスナーをつけた洋服

「ゆったりとしたデザインだったら着やすいのですが、この方が必要としているのは外出着ですから、体にフィットしたデザインが適しています。ですので、脱ぎ着がしやすいような工夫を施しました」。さらに鶴丸さんが「これは私にはない視点だった」と驚いたのが、白い服の左胸部分に、ビーズで装飾をつけたことだ。

白い服の左胸部分に、ビーズで装飾をつけた洋服

 「麻痺のある人の中には、麻痺した側に対する意識がなくなってしまう人がいる。ふとしたことで障害物にぶつかってしまうなどのトラブルが起こることがあります。装飾をつけることで、麻痺している部分にも意識を向けてもらうことができるのではと考えました」。恒松さんの、作業療法士ならではの視点が生きた工夫だ。

 できあがった白と黒の2着は、たるんだり、突っ張ったりする部分がなく、見た目にも自然だ。さらにファスナーなどの工夫があり、麻痺があっても一人でも着ることができる。この女性は、これまで既製服に無理やり体を合わせていたので不格好に見えることを気にしていたが、この服を作ったことで自然と外出の機会が増え、以前より活発になったという。「自分の好きな服を着ることができる、そのことが本人の意欲につながる、そんな事例をいくつも見てきました」と鶴丸さん。恒松さんも「その人の生活の質を高めることはもちろん、予防医学の観点からも、もっと服に注目が集まればいいと思っています」と言う。

 こうした取り組みをする中で恒松さんは、「鶴丸メソッド」で測定する46箇所が、解剖学的に根拠のある場所だということに気がついた。「骨格や筋肉についての知識を有する作業療法士であれば、この計測法を身につけることができると考えました」。恒松さんは、鶴丸さんと共同で、作業療法士に測定法を身につけてもらえるようにマニュアルをつくり、講習会を開いている。「測定ができる作業療法士が増えれば、全国の障害のある人が体を測定し、そのデータを送ってもらうことができる。遠くまで出向かなくても、服を作ることができる」。

 「すべての人に、その人らしい服で生き生きと暮らしてほしい」。鶴丸さんの思いを、作業療法士の視点で恒松さんが支え、広げていく。身近で、長い時間をともにする服のあり方を考えることは、その人の暮らしの質を高める事につながる。

■施設情報
三井会神代病院
〒830-1102 福岡県久留米市北野町八重亀382-1
電話:0942-78-3177(代表)

一般社団法人 服は着る薬
〒870-0021 大分市府内町1-4-20
電話:090-3735-0893

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