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TEAM OT地域包括ケアシステムに欠かせない「生活の視点で対象者を支援する医療職」

株式会社ハート&アート・茂木有希子さん

地域包括ケアシステムに欠かせない「生活のスペシャリスト」

株式会社ハート&アート・茂木有希子さん

 今「地域包括ケアシステム」が、地域医療・福祉の現場で注目を集めている。「地域包括ケアシステム」とは、医療、介護・リハビリテーション、予防保健など複数の医療・福祉サービスが地域の中で連携することで、誰もが地域の中で、安心して自立した暮らしを送ることのできる環境を作ろうという考え方である。その背景には、急速に進む高齢化により、介護保険受給者、受給額が増大しつつある現状がある。そこで「2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進」(厚生労働省HPより)するという厚生労働省の方針に基づき、各市町村がそれぞれ独自の取り組みを進めている。

 埼玉県さいたま市で介護保険下のデイサービス、重度心身障児の児童発達支援事業、放課後等デイサービスを運営する「株式会社ハート&アート」代表の茂木有希子さんは「埼玉県作業療法士会地域包括ケア推進委員会委員長」も務める。茂木さんは「作業療法士は『生活の視点で対象者を支援する医療職』です。ですから地域包括ケアシステムの中で果たすべき役割は大きいと思います」と言う。

 地域包括ケアシステム運用のカギとなるのが「地域ケア会議」だ。各市町村の行政が中心となり、ケアマネジャー、看護師、保健師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、医師、歯科医師、薬剤師、管理栄養士などさまざまな専門職が参加して、それぞれの立場から個別の事例を検討することで保健・医療・福祉サービスの適正化を図りながら、その地域がもっている健康課題を浮き彫りにする。たとえば、医師であれば対象者の抱える疾病の病状や今後の見込み、管理栄養士であれば毎日の食生活の分析やその改善のためのアイデア、理学療法士であれば身体機能の状態や生活の中での動作を改善する方法についてなど、それぞれが専門を生かし、気づいたことを指摘し、改善のための意見を出し合う。その全体をまとめ、今後の介護の方向性を考えていくのは、ケアマネジャーの役割だ。

 「地域ケア会議」の中で作業療法士も、他の専門職と並んで対象者の生活をみる視点をもっているが、作業療法士の特長は、ひとの生活をさまざまな“作業”の集積と捉え、それを身体機能面と社会心理面から医学的に分析し、病気や障害によって支障の生じた“作業”に対して医学的な根拠に基づいた支援や指導を行うことで、生活の改善や生きがいの回復につなげることができるという点にある。「地域ケア会議において、作業療法士はその人にとっての具体的な生活の状況についての分析や、生活の改善方法についての意見を求められることが多いんです。それは、他の医療や福祉の専門職の立場からではなかなか出てこないんです」。身体機能だけを見るのではなく「この人は、生活のどんな部分で、どういう風に支障をきたしているのか」、「それを改善するために、なにをすればいいのか」をアドバイスできるのは、作業療法士が「生活」の視点をもっている「医療職」だからだと、茂木さんは指摘する。

 例えば、退院後、要介護認定を受け、地域で暮らしている高齢者のことを考えてみよう。デイケアに通い、リハビリテーションを受けている。筋力トレーニングや歩行訓練などで「○メートル歩けるようになる」ことを目標にしている。その一方で、家庭でのゴミ出しなど、生活上のこまごまとした雑事の大部分は、ヘルパーにやってもらっている。「こういうケースは意外と多い」と茂木さんは言う。「歩けるようになって、筋力もついているなら、ゴミ出しをヘルパーがやる必要はないのかもしれない。個々の介護サービスが連携できていないことで、ムダが生まれてしまっています。ムダだというだけでなく、この方が自立した暮らしを送ろうという意欲も削いでしまっている」。こうした「ズレ」を調整し、一人ひとりに提供される福祉サービスを適正化しながら、支援が必要な人が、地域で安心して自立した、生きがいのある暮らしを送ることのできる環境を提供することが、地域包括ケアシステムの大きな目的だ。「個々の医療・介護サービスをつなげて効果的なものにしていくために、作業療法士が持つ『生活』の視点が求められていると強く感じています」と茂木さんは話す。

地域包括ケアシステムに欠かせない「生活のスペシャリスト」

 「株式会社ハート&アート」が運営するデイサービス「ダイアリー」は、退院後、地域でリハビリテーションを継続したい人が利用している。ここに、73歳のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者、Tさんが通っている。神経細胞が侵されることで全身の筋肉が動かなくなっていく病気であるALSは、原因も有効な治療法もわかっていない難病のひとつだ。Tさんは「ダイアリー」の近くに住んでいて、家から看護師に付き添われながら、呼吸器をつけ、車いすで通ってくる。「通所サービスは、居宅から施設まで、送迎車でドアツードアの送迎をするのが一般的です」と茂木さん。しかしTさんの場合は、近所だったということはもちろんだが、「なにか機会がないと、外に出ることがない」からと、Tさんのご家族から、徒歩(車いすを押して)で通いたいという申し出があった。

 「難病の方で、呼吸器をつけていて、痰の吸引も頻繁にしなければならない。私たちは医者のいないデイサービス事業所ですから、そういう方はそもそも受け入れることが難しいんです。ましてや送迎車を使わずに通っていただくなんて、なかなかできることではないです。でもご家族からの希望があって。それならと、うちに往診に来ていただいている医師と相談し、連携を取る体制を作ったことで、お受けできることになりました」。Tさんのご家族と相談を重ねる間に、茂木さんは何度か「求めているのは、医療ではないんです」という言葉を聞いた。「ここには、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などセラピストが多くいます。彼らに、Tさんのできることを、なにか発見してもらいたいんです、と言われて」。「歩いて通う」ことも、Tさんにとっては、その「できること」のひとつなのだろう。
「ダイアリー」に通って3年、Tさんはわずかに動く右足を使って絵を描くことができるようになった。絵を描くことで、家族をはじめ周囲の人とのコミュニケーションが、豊かになった。リハビリテーションと医療が連携することでTさんは「ダイアリー」に通うことができるようになり、そのことがTさんの生活を豊かにしたのだ。

 Tさんの事例のように、地域の医療・福祉・介護サービスが連携することで、介護サービスの適正化を図ると同時に、地域で支援を必要とする人たち一人ひとりに、よりきめ細かなサービスを提供しようという「地域包括ケアシステム」の理念を実現しようという時、作業療法士が果たす役割は大きい。

地域包括ケアシステムに欠かせない「生活のスペシャリスト」

■施設情報
株式会社ハート&アート
〒337-0042 埼玉県さいたま市見沼区南中野422-7
電話:048-682-2150(代表)

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