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作業療法士の支援を受ける

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TEAM OT食事の楽しみは、いのちの喜び。「食べる」を、チームで支える。

下伊那赤十字病院・「摂食・嚥下」チーム

 長野県下伊那郡にある「下伊那赤十字病院」には「のみこみの外来」という、ちょっと変わった名前の外来がある。この「のみこみの外来」は、作業療法士が中心となって立ち上げたのだと聞いて、訪ねてみた。そこでわかったのは「食べること」が、高齢者や入院患者の生活の質に大きな影響を与え、時には回復への意欲も変えてしまう、ということだった。作業療法士を中心としたチームによる「食べること」への取り組みを紹介しよう。

食事の楽しみは、いのちの喜び。「食べる」を、チームで支える。

 下伊那赤十字病院の「のみこみの外来」は、毎週火曜日の午後に診療が行われる、完全予約制の外来だ。およそ半年間の試験運用を経て、2015年4月に正式に開設された。「のみこみの外来」は、高齢や病気などにより食べることやのみこむことに課題や不安のある患者に対して、食べることやのみこむことについての機能(摂食・嚥下機能)の評価を行い、その人の状態に応じて食べ方やのみこみ方の訓練や指導を行い、あるいはテーブルを食べやすい高さにしたり、食べやすい形や大きさの食器にかえることで、食事行為の改善をはかる。医師の指導のもと、作業療法士と摂食・嚥下障害看護の認定看護師が中心となったチームにより、作業療法士が基本的な評価を行う。食べ方やのみこみ方の訓練については作業療法士と認定看護師が、またその人の状態にあった食べやすい食事の指導などを管理栄養士が行う。

 通常は「嚥下・摂食外来」などという名称で、さまざまな病院に設置されていることが多いが、「のみこみ」という名称はユニークだ。「嚥下とか摂食ではわかりにくいかな、と思って」と話すのは、この「のみこみの外来」設立に尽力した、同院の作業療法士、山下圭一さんだ。長年、作業療法士として摂食・嚥下の分野での経験を積み重ねてきた山下さんは、下伊那赤十字病院にも摂食や嚥下を専門に扱う部署が必要なのではないかと考え、医師や看護師などさまざまな職種に声をかけ、セミナーなどの形で自分の経験を伝えた。その中で2012年に「摂食・嚥下チーム」が生まれ、そこから「のみこみの外来」の活動が立ち上がった。

 同じ「摂食・嚥下チーム」では、外来のほかにも入院患者の中で必要と思われる人に対して回診をおこなっている。回診の様子を取材させてもらった。回診では、多様な視点からの観察と評価が必要となり、知識と経験、さらには人間力が試される。たとえばある患者は、「ごはん(おかゆ)は食べるけれど、おかずは食べない」という。喉に聴診器をあて、嚥下の様子を評価するが、おかずは問題なく食べられそうだ。担当の看護師や家族、さらには本人に聞き取りをすると「病院のおかずが美味しくない」と思っていることがわかった。高齢でもあるし、無理をしなくても好きなものだけ食べればいい、という考え方もあるが、ごはんだけでは栄養が足りない。そこで山下さんは、患者の家族に、本人が食べ慣れているもので、ごはんと一緒に食べられる手軽なものを持ってきてもらうように指導をしたところ、「卵かけごはん」が好きだったので、「温泉卵」を持ってくることになった。食べ慣れたものをごはんに追加することで、栄養とカロリーを補おうというのだ。

食事の楽しみは、いのちの喜び。「食べる」を、チームで支える。

喉に聴診器をあてることで、嚥下の様子を確認する

 また、脳梗塞を患った別の患者は、最近転院してきたしたばかり。前の病院では、特に食事の指導は受けていないという。山下さんが評価したところ、それほど嚥下機能には問題がない。ところが食べはじめると、時折むせる。よく見ていると、食べるスピードが速く、かきこむように食べている。「ゆっくり食べてね」と何度言っても性格なのか、なかなかスピードが落ちない。そこで山下さんと看護師は相談して、使っているスプーンのサイズを小さいものにすることにより一度に口に運ぶ量が減り、むせることも少なくなった。このように、回診では患者の機能や環境、意欲など様々な要因を複合的に評価しなくてはならない。

「のみこみ」を阻害する要因には、大きくわけて下記の4つがあり、それぞれに改善のためのアプローチが異なる、と山下さんは言う。

① 身体的な要因:身体機能の衰えや、内科・外科的な障害によるものなど
② 環境的な要因:ベッドの上で無理な姿勢を取っている、食べる時間帯が悪い、など
③ 精神的な要因:気分が沈んで、食べる意欲がわかない、など
④ 認知的な要因:認知機能の低下により、そもそも食事を認知できない、など

 たとえば先ほどの回診でいえば、「病院のおかずがおいしくない」という患者は、②と③の要因、食べるのが速くてむせてしまう人は、①と②の要因、と考えられる。外来や回診では、評価によってその人がなぜ「のみこみ」ができないのかを明らかにしたうえで、適切な改善支援・指導を行う。評価・改善については作業療法士が中心となるが、「作業療法士だけでは、とても一人の人の支援はできない」と山下さんはチームアプローチの重要性を指摘する。「身体機能や内科的な要因については、医師の知見は欠かせませんし、食事の姿勢や時間帯、食べる様子などについての情報は、現場の看護師や介護士が一番情報を持っています。チーム連携なくしては、支援はうまくいかない」。たとえば先ほど見た回診一つをとっても、数多くいる入院患者の中で、誰が嚥下・摂食機能の改善アプローチを必要としているのかを判断し、チームに提案するのは、誰よりも現場を見ている看護師の重要な役割だ。

食事の楽しみは、いのちの喜び。「食べる」を、チームで支える。

回診の最中にも看護師と相談しながら方針を決める

 今や日本の三大死因の一つに挙げられる肺炎。「のみこみ」の機能不全により誤って気管に食べものが入ることによって引き起こされる誤嚥性肺炎は、高齢者や身体機能の低下している入院患者にとっては深刻な問題だ。摂食・嚥下機能を改善することで、リスクを下げることができる。しかし摂食・嚥下機能の改善がもつ意味は、そうした生命のリスクを回避するだけにあるのではない。食べることができるようになって、治療やリハビリテーションへの意欲がわき、状態が改善したという例も少なくない。「食べる喜び」という、人間の根源に関わる感情を取り戻すために、作業療法士が中心となったチームが支援をしている。

■施設情報
下伊那赤十字病院
〒399-3303 長野県下伊那郡松川町元大島3159-1
電話:0265-36-2255(代表)

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