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こんなところで!作業療法士地域移行は、コーヒーを自分で入れることからはじまる

医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院

地域移行は、コーヒーを自分で入れることからはじまる

 東京都練馬区の「医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院」。1929年(昭和4年)に開設され、以来80年以上の長きにわたり、精神科医療の草分け的存在として精神病患者の治療と社会復帰に尽力してきた。現在は入院、外来、デイケア、訪問看護など幅広く、地域の医療ニーズに応えている。

 統合失調症、うつ、精神発達遅滞などの精神疾患の方が主に入院しており、現在は認知症疾患医療センターの指定も受け、認知症の治療にも力を入れている。2004年(平成16年)に「入院医療から地域生活中心へ」との方策が示されてから、長期入院者をいかに地域移行するのかが、慈雲堂の課題となっている。精神病院一般に言えることであるが、中には入院して何十年と経過してしまった方もいる。また5年以上の長期入院の方の中でも、アパートやグループホームなどの単身生活を目指せる層と、高齢により単身生活は困難だが、老人ホームや保健施設などの施設を目指せる層とに分かれる。慈雲堂の地域移行プログラムには、前者を対象にした「青空会」と、後者を対象にした「ひだまり会」とがある。

 「ひだまり会」は、高齢で入院している方に、グループで、普段行っている作業療法とは異なる、より生活に密着した行動体験をすることで、もっと自発的、積極的に行動してもらい、地域移行できるようにとスタートした、退院支援のプログラムだ。長期入院者は環境の変化などが苦手な人が多いため、負担となり過ぎないよう2週間に1度程度の頻度で行われる。基本的には半年、最長でも1年でメンバーが変わる。プログラムがただの余暇活動とならないように、期限を区切っている。ある程度精神状態が落ち着いて、自分の身の回りのことができる人が対象となる。

 当初は試験的にスタートした「ひだまり会」は、まず最初に「コーヒーを自分で入れて、一緒に飲む」ことからはじめた。長期入院者は、新しいことや変化が苦手な人が多く、緊張も高い。そこで好きなコーヒーを飲みながら話し合うことで、なごやかで安心できる雰囲気を作ることを心がけた。入院患者の中には、コーヒーを飲むことが好きな人が多かったが、たとえインスタントコーヒーであっても、自分で入れる機会がなく、一人で入れることができる人はほとんどいなかった。そこでコーヒーを自分たちで入れてもらった。病院の外で暮らしている人ならば、コーヒーを飲みたいときは自分で入れるのが当たり前。その当たり前の生活体験を取り戻すことからはじめた。そこから参加者は「ひだまり会」という刺激・変化に慣れていく。また、「自分でできた」という成功体験も、大切な経験となる。今でも「ひだまり会」の活動は、このコーヒーを入れる体験からはじまる。

 「コーヒーを入れる」体験の次は、近くのスーパーに買い物に行く。最初は院外の環境がわからず、選択肢が狭いため、「なにを買いましょうか」と問いかけても、なにも思い浮かばず、「自分には必要な物なんてない」という患者も少なくない。しかし「じゃあ、おやつを買いに行きましょう」と具体的な行動に示唆されると、欲しいものを言うようになる。また、病院外のスーパーと、病院内の売店の価格と比較することで、物価感覚も身につく。さらに近くの公園にピクニックに行くなど、行動半径を広げ、また買い物の内容もおやつから、洗剤などの生活必需品へと幅を広げていく。こうしたことの積み重ねによって、入院患者に、主体的に自分の生活を見ていく習慣の獲得を狙う。

 その次はバスに乗って駅前にと、どんどん活動の範囲と幅を広げながら、「ひだまり会」では、常に患者さん自身にやりたいことを考えてもらい、実行する形をとるように心がけている。与えてもらうことが多い毎日の生活の中で、「自分の主張や希望がかなう」という経験を大事にしている。だから、たとえば「外食がしたい」という希望が出た時も、病棟で食べられるものの制限があったとしても、なるべくかなえられるように工夫する。長期入院者にとっては、メニューから食べたいものを探して注文するだけでも大変な苦労であり、病院で過ごしていると、自分で考える、自分で選ぶ場面がなくなっていきがちだ。そうやって失われた生活体験を取り戻すと同時に、自分たちが選んで自発的に行動したことが、「いい体験」として記憶に残る。「できたこと」に目を向け、自信をつけてもらうことで、「もっとこうしたい」という意欲が出る。その意欲が、次の行動につながっていく。その際、グループ活動という「集団の力」を活用していることもポイントだ。「一人では怖いけれど、誰か仲間と一緒ならやってみよう」という気持ちを引き出すことができるからだ。

 これまでに「ひだまり会」を体験したのは20名ほど、そのうち退院につながったのは、約3名。退院支援のプログラムだが、退院という言葉を直接的には出さないこともポイントだ。退院の言葉を出すことによって、長期入院者の中には、抵抗感、恐怖感を抱く人もいるからだ。仮に退院につながらなかったとしても、日々の活動性や行動範囲が拡大したり、苦手であった「新しいこと」にも前向きに取り組めたりと、生活の幅は確実に広がる。「ひだまり会」の取り組みは、人は、病があっても、また何歳になっても変わっていける、ということを示しているのではないだろうか。

■施設情報
医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院
〒177-0053
東京都練馬区関町南4-14-53
電話:03-3928-6511

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