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こんなところで!作業療法士「へき地」の健康と暮らしをつくる作業療法士

只見町介護老人保健施設「こぶし苑」

 都心部から離れ、医療・福祉の体制にも多くの課題のある離島や山間部の「へき地」などで働く作業療法士は、いったいどんな活動をしているのだろうか? そのような場所で作業療法士に求められる役割とは、どんなものなのだろうか? 今回は福島県只見町で活動する3人の作業療法士の姿を追った。

「へき地」の健康と暮らしをつくる作業療法士

 福島県只見町は、新潟県との県境に位置する、人口約4,400人の町。ブナ林に囲まれ、岩魚や山女が息づく清らかな川と湖のある四季折々の自然豊かな場であると同時に自然の厳しさにも直面する町。町へのアクセス事情は悪く、車の場合、主要な高速道路のインターチェンジから2時間程度かかる。有名な「只見線」も通っているが、日に数本しか走っていない。また日本でも有数の豪雪地帯でもあり、冬季には3m近くの降雪によりいくつかの道路は封鎖され、半ば「陸の孤島」となってしまう。

 町の65歳以上人口は、平成27年9月現在で全人口の44.4%、75歳以上人口は20.4%に達していて高い高齢化率を示している(福島県全体では、65歳以上人口は全人口の28.5%、75歳以上人口は15.0%)。

 この町の高齢者に対する医療・福祉は町立の朝日有床診療所、介護老人保健施設「こぶし苑」、高齢者生活福祉センターなどがあり、福島県立医科大学(地域・家庭医療学講座)の協力を得ながら対応している。しかし、一番近い総合病院までは車で2時間ほどかかる。緊急時にはドクターヘリが手配されるが、もしもの時の不安は消えない。また「400名を超える障がい者(身体・知的・精神)が町内に生活しており、今後ますます高齢化が進行していく中、その対策が求められています。」(『第六次只見町振興計画』只見町より)と町が指摘しているように、社会資源がきわめて限られている中で、高齢者や障害者の安心で安全な暮らしをどのように実現するのかが、只見町の医療・福祉が直面する課題だ。

 作業療法士・長谷部真奈美さんは、平成7年から町の職員として健康づくりなどの事業に関わりながら、介護老人保健施設「こぶし苑」のリハビリスタッフとして勤務している。「こぶし苑」は、平成元年に只見町が設立した町立の介護老人保健施設。町としては唯一の介護老人保健施設であり、農繁期や越冬での入所相談や、ニーズの多い在宅生活支援を行っている。もともと只見町出身の長谷部さん、只見町の医療・福祉が周囲から取り残されていってしまうのではないかという危機感から、作業療法士の資格を取得した後、地元に帰ることを選んだという。「過疎化、高齢化という大きな課題はあるけれども、『只見町らしいこと』を考えていけば、町が楽しくなるんじゃないかと思ったんです」と長谷部さん。入職してから、従来の介護老人保健施設の考え方にとらわれず、利用者の健康を増進するための幅広いプログラムを、周囲の指導やアドバイスも受けながら実行していった。「従来の老人保健施設の考え方にとらわれない」とは、例えばこんなことだ。「只見町にも、いろんな特技を持っている人がいます。農作業の中で培った縄よりや機械の修理の技術、あるいは民謡や踊りといった地域の文化。「へき地」だからこそ、地元の住民なら誰もが濃密に共有できるなじみの作業ですから、手が覚えているんですね。そういったものを取り入れながら、只見町ならではの作業療法のあり方を考えていきました。この病気だからこのリハビリテーション、と固定した考え方をするのではなく、思わず笑顔になれるような活動であれば、こころもからだも動き出すのではないかと思うからです」。

 そうやって、入職してから15年近くひとりで活動してきた長谷部さんに、2人の心強い味方が加わったのは、6年前のことだ。作業療法士の菊地梓之(しの)さんと飯島小百合さん、2人の作業療法士がやってきた。2人とも県外の出身で只見町には縁がなかったが「長谷部さんが行われている、只見町での作業療法の話を聞いて興味がわいたんです。作業療法士として只見町の職員になると聞きました。そうすると町全体の医療・福祉のありかたを考える中で、他の職種の人と、様々な仕事ができるんじゃないか、と期待しました」と菊地さん。「実際に住んでみて、冬に大雪が降ることの大変さを知りました」と飯島さんは言う。「でも、自分たちが対象としている方々の生活を体験して、同じ時間の中でかかわることができることがうれしい」とも感じている。

「へき地」の健康と暮らしをつくる作業療法士

「朝日診療所」に入院する高齢者にかかわる菊地梓之さん

 菊地さん、飯島さんが只見町に来て、「こぶし苑」で働く作業療法士が3人になってから6年目。当初は介護老人保健施設である「こぶし苑」の入所者やデイケアに通ってくる方を対象にしたリハビリテーションを拠点としながら考えてきたが、別な視点からの課題も見えてきたという。「介護老人保健施設にいると『もっと早く、地域でなにかしてあげられたんじゃないかな』でと思うことが、けっこうあるんです」と長谷部さん。例えば、在宅で寝たきりになってしまった高齢者がいる。なぜかと理由を探っていくと、心身ともにバランスを崩し、家から出られない状態である「閉じこもり」の状態になってしまったからだということがわかった。「介護老人保健施設は、地域に根差しているのだから、健康づくりにもっと力を入れなければならないのではないか、ということに気づいたんです」と長谷部さん。そうした視点で見てみると、「こぶし苑」の外にいる人たち、例えば自宅で暮らす高齢者や、診療所の入院患者、あるいは子どもたちとその親など、もっと多くの人たちと作業療法士がかかわることで、地域全体の健康を底上げできるのではないか。その方法を、他職種と相談しながら考えていきたい。そこで、自分たちが地域の中でどんなことをやりたいかを3人で話し合い、表にまとめて、他の医療職・福祉職にプレゼンテーションした。その結果、これまで取り組んできた介護予防事業などに加え「こぶし苑」と同じ敷地にある「朝日診療所」の入院患者に対してのリハビリテーションを行ったり、町の保健師らが行っている、親子を対象にした「のびゆく子供支援事業」でのプログラムづくりでも、一緒に考えていくことができるようになった。「作業療法士は、対象とする方々のこころとからだに近いところにいることができるように思います。そこで感じたことを他の多くの職種の方々と共有し、みんなで健康づくりを考えていきたい」と長谷部さん。

「へき地」の健康と暮らしをつくる作業療法士

町が主催する、母子で一緒に体を動かすプログラムを指導する飯島小百合さん

 地域のさまざまな場所で幅広く予防保健や健康づくりに力を入れていきたいという町の要望に応え、介護老人保健施設を拠点として活動することのみでなく、作業療法士が核となって、他の医療・福祉職が連携・協働していく。このような動きを見ると、実は只見町は長谷部さんが入職した20年前から、わが国の課題である「地域包括ケアシステム」構築の原形を創り出そうとしてきたのではないかと感じた。只見町で、最先端の地域医療・福祉の形が作られようとしているのかもしれない。

■施設情報
只見町介護老人保健施設「こぶし苑」
〒968-0442 福島県南会津郡只見町大字長浜字唱平31番地
電話:0241-84-2101

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