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こんなところで!作業療法士作業療法を通じて、文化の違いを体感する

大塚進さん

 「作業療法」は、英語では「Occupational Therapy」と呼ばれる。作業療法士は世界中にいる、国際的な職能だ。日本で作業療法の資格を取り、世界各国で活躍する作業療法士も少なくない。ここでは、東南アジア、タイとミャンマーで、作業療法士としてのスキルを活かし、活躍した経験のある作業療法士を紹介する。

作業療法を通じて、文化の違いを体感する

 作業療法士の大塚進さんがJICA(国際協力機構)の「シニア海外ボランティア」として障害者施設で作業療法の技術支援を行うために、タイを訪れたのは、2010年10月のことだった。「それまでは山梨県の大学で、作業療法士を目指す学生を教えていました。教育の現場も面白く、やりがいがあったのですが、ある時『臨床の現場にもう一度立ちたい』という気持ちが強くなって」。とはいえ、長年作業療法士としての経験を積んできた大塚さん「国内の臨床ではない、別の場所を経験してみたかった」という思いから、海外という選択肢に行き当たった。「シニア海外ボランティア」の募集は、東南アジア方面、中南米方面が多いが、東南アジアの場合、ボランティア業務では英語を使うことができ、大塚さんにもなじみがあったこと、また何度か観光での訪問経験があり、多少なりとも生活の様子がわかっている、タイでの活動を選択した。

 JICAからの派遣要請の活動内容は「大規模障害者施設でのADL (日常生活動作。食事や着替え、排泄など暮らしていくのに欠かせない動作のこと)の維持・向上、レク・グループ活動の支援、理学療法士・助手への技術指導」ということだったが、実際に現地を訪れてみると、さまざまなギャップに出会うことになった。まず、理学療法士はおらず、また施設内の支援体制が、日本とは大きく異なっていたという。「500人ほどの入所者に対して、職員はわずか70人足らず。日本であれば300人は超えるでしょう。まず考えられないことです」。実際どのように運営しているのかを見てみると、障害の軽い入所者が、職員の指導・指示のもとに、より障害の重い入所者の介護をしていることがわかった。「日本からやってきた作業療法士として、その状況を批判することは簡単でした。しかし私はそうするのではなく、状況の中で最も良い支援とはなにか、を一緒に考えることにしたのです」。

 この施設における課題はなにか。作業療法士として貢献できることはなにか。次第にわかってきたのは、この施設に来る人たちの多くは基本的な医学的リハビリテーションサービスを受けていないということだった。受傷・発症した段階ですぐに十分なリハビリテーションを受けることができなかったために、本来ならば要介護の状態になる必要のなかった人まで、要介護状態になってしまっている。「そうであるならば、彼ら入所者が自分の身のまわりのことが少しでも自立してできるようにするために、私が積み上げてきた経験や技術を活かすことがいいのではないかと考えました」。

 基本的なリハビリテーションが有効だと考えた大塚さんは、歩行訓練なども積極的に取り入れた。「理学療法だ、作業療法だとこだわることはないんです。専門ではなくても、基本的なところは知っています。それが役に立つんです」。入所者の生活の自立を向上させることは、職員の負担軽減にもつながる。「ベッドから車いすへの移乗が自立してできる人が増えれば、職員や入所者の介護の負担が減ります」。当事者の生活を向上させ、介護にあたる入所者の負担を減らすために、作業療法士としての知識・技術を活用した。食事用の自助具・装具を作成したり、介護方法の指導、時にはベッドの配置などの環境を調整することで、施設全体の効率を向上させる提案もした。「現地の職員に『こうすれば施設が変わるし、入所者の暮らしも変わるんだよ』というところを見せて、私がいなくなった後でも継続してもらえるように、と心を砕きました」。延長も含めて2年半で、大塚さんは帰国。その施設には後任の理学療法士が派遣され、大塚さんの取り組みを継続・発展させているという。

 タイから帰国しておよそ1年後、今度はミャンマーへ行くことを大塚さんは決意する。長く続いた軍事独裁政権から民主化を果たしたミャンマーで、リハビリテーションの質を向上するための支援をする短期ボランティアに参加した。「ミャンマーは第二次世界大戦後、独立を果たし、インドシナ半島ではいち早く復興した国の一つで、1965年に理学療法士の養成校を設立していました。リハビリテーションの歴史は古いんです。軍事政権下で発展が止まってしまったそのリハビリテーションの技術を復興するお手伝いです」。理学療法士に、作業療法の視点を持ってもらうために、2014年、2015年と2度にわたり、それぞれ1年弱ずつ滞在し、職員に対する職員教育の形で指導に当たった。

作業療法を通じて、文化の違いを体感する

上肢触診のワークショップ

 タイ、そしてミャンマーでの経験を通じて、少しずつわかってきた事がある、と大塚さんは言う。「作業療法を通じてタイやミャンマーの人たちと触れ合うことで、表面上の文化の違いだけでなく、深い部分での価値観の違いに触れることができたような気がします」。その違いはたとえばこんなところにあらわれるという。「自分で少し努力すればできることでも、家族が当事者の世話をすることが当たり前になっているんです」。「障害のある人や困っている人を助けるのは当たり前」という意識が浸透しているのだという。「仏教的な思想が背景にあるのだと思うのですが、困っている人を助けるのは『功徳(くどく・仏教徒が日常生活で当然行うべきとされる「善行」のこと)』だ、という価値観があるようです。助けてもらう方もどこか『障害も輪廻の一環で運命』という意識があるし、リハビリテーションにたずさわる医師や、理学療法士・作業療法士でもそういう潜在意識があるようです。日本人は自分たちを仏教徒のように思っているけれど、深い信仰心に加えて、日本の仏教とは異なる「上座仏教 (タイ・ミャンマー・ラオス・カンボジアなどで信仰されている仏教の種類。日本で普及している仏教は大乗仏教)」の根本原則が身にしみついている彼らの価値観と、私たちの価値観は同じではないと思います」。しかし、そうした価値観を否定も肯定もすることなく、それを前提としてどのようなことができるのかを考えることが重要なのだと言う。「海外での経験は、日本における作業療法が決して世界共通のものではないということを学ぶいい機会になりました。知識や技術は共通でも、いろんな文化や価値観を背景にした、いろんなやり方があるんだということがわかります。若い人にも、ぜひ経験してもらいたい」と大塚さん。「作業療法」を通じて、世界を知ることができれば、その人の作業療法は、さらに豊かになっていくのだろう。

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