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こんなところで!作業療法士「災害後の暮らし」を支える作業療法

中野皓介さん(摂津市保健センター)

 2011年の東日本大震災以降、日本全国で災害に対する備え、あるいは災害からの復旧・復興のための体制づくりの重要性に注目が集まっている。自ら大事故に巻き込まれた経験を持ち、被災地で避難生活の支援を行った作業療法士に、災害時の作業療法士の役割について聞いた。

「災害後の暮らし」を支える作業療法

写真提供:中野皓介さん

 大阪府にある摂津市保健センターに勤務する作業療法士・中野皓介さんは、2005年に起こった福知山線脱線事故に巻き込まれた経験がある。4時間半ほど車内に閉じ込められ、両足に重傷を負った。当時、中野さんは、作業療法士の資格を取得しようと、大学に通い始めたばかりだった。搬送先の救急病院が、1995年の阪神淡路大震災を契機に設立されたものだと後で知った。この経験は、中野さんにとって「災害時に医療・福祉職としてできることはなにか」ということを考え続けるきっかけとなった。

 2016年4月に発災した熊本地震。医療・福祉の専門職によって組織され、大規模災害発生時、被災地に医療・福祉の支援を行う大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(以下JRAT)からの派遣要請に手をあげた中野さんは、発災から2週間ほど経過した5月に被災地に入り、4日間で担当する地域の13箇所の避難所すべてを訪問し支援をした。「4日間は短く、とてもなにかできたとは言えません」と中野さんは言うが、被災地に作業療法士として入ることで、避難生活で起こる課題を、専門職の視点から解決しようと取り組んだ。

 災害発生時から数週間、あるいは数ヶ月におよぶ避難生活で大きな課題となるのが、生活不活発病だ。「生活不活発病は、文字通り生活が不活発になってしまって、精神機能も身体機能も運動機能も落ちてしまう、というものです。もともと何らかの疾患を抱えていた人はもちろんですが、それまでは普通に日常生活を送れていた方でも、避難生活をきっかけに、それまではあまり問題にならなかった体の不調が顕在化し、生活不活発病になってしまう場合もあります」。そうした事態を少しでもなくすために、中野さんは避難生活の生活環境の整備、また適切な活動の機会を提供するための仕組みづくりを支援した。

 生活不活発病が避難生活で発生する大きな原因は、避難所の環境にある。「避難所は、多くが体育館や公民館などの広い場所で大勢の人が一緒に生活をします。プライベートなスペースも不十分なことが多いのです。自宅であれば、トイレやキッチン、自分の部屋など、個人個人の活動範囲があって、生活の中で自然と体を動かす機会を持つことができたけれど、避難所では身体的にも、また精神的にも活動が少なくなってしまいがちです」。炊き出しや外部支援者によるさまざまな生活支援も日常的に行われているが、そのことが生活不活発病につながる遠因になってしまうこともあるという。「精神面で依存的になってしまうことがあります。ボランティアなどの支援者が炊き出しなど生活全般の面倒も見てくれる、という環境になると、本当に動かなくなってしまう人もいる」。生活不活発病で動かなくなると深部静脈血栓症(静脈に血の塊ができる病気。できた血の塊が肺などに流れ、重篤な症状を引き起こすことがある)などさまざまな疾患のリスクも出てくるという。

 熊本では発災当初から支援物資は比較的豊富にあったというが、それでも数は限られる。例えば避難生活者を評価し、段ボールベッドを優先的に使うべきは誰なのか、などを判断する基準を提供するのも、中野さんたち作業療法士の大切な役割だ。また避難所の運営に関わるボランティア団体とも話をして、彼らが企画・運営するさまざまなイベントに、避難生活者の参加を促したり、また生活不活発病を予防する体操を提案し、ともに実施するなどの支援もしたという。「発災直後からJRATのボランティアとして、作業療法士が交代で被災地に入り、現地の行政や医療・福祉関係者との関係性を作ってくださっていたので、私は、ボランティア活動がとてもしやすかった」と中野さん。今回の活動を通じて、なるべく発災直後から支援に入ることが大切だと学んだ。「最初は自分の職種など関係なく支援し、その中からニーズを汲み取って、作業療法士のスキルと経験で解決につなげる、という姿勢が求められるのだと感じました」。

 中野さんは事故や災害は他人事ではなく、いつでも自分や自分の住む地域に降りかかる可能性があると考えている。「熊本で得た経験を自分の地域の災害対策に活かしたいですし、そうした動きが全国に広がればいいと思っています」。専門職として、災害にどう向き合うか。今後は作業療法士の職能を活かした災害支援活動が、ますます広がっていくことだろう。

■施設情報
摂津市保健センター
〒566-0021 大阪府摂津市 南千里丘5-30
電話:06-6381-1710

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