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平成20年度 課題研究助成制度採用課題

研究
種目
研究課題名 申請者(研究代表者) 所属 助成金額(円)
認知症者の筋力発揮特性-運動負荷を定量化した筋力トレーニングによる認知症者の生活自立度改善効果の検証 鈴木 誠 川崎市立多摩病院 1,600,000
研究概要: 下肢筋力は起居移動能力に関する予備力を評価する際の有用な指標の一つとなっている.しかし,認知症者の場合,課題に対する最大努力が難しいことに加え,筋固縮に伴う相反神経支配機構の障害によって,筋力測定時に最大筋力を発揮することが困難であるとされている.そのため臨床においては,認知症者に対する筋力測定の結果を基に定量化された負荷を用いて予防的な介入を実施することが難しいのが現状である.本研究の第1研究では,認知症者に対する筋力測定における筋出力様式の特徴および相反神経支配機構の障害による影響,筋力測定に関する被験者内再現性を明らかにすることを目的とする.第2研究では,筋力測定の結果を基に定量化された負荷量を用いて筋力トレーニングを実施し,その効果を明らかにすることを目的とする.
実施方法: 第1研究
 アルツハイマー病患者8名を被験者とした(男性2名,女性6名,平均年齢86.9歳).被験者は可及的に速くかつ強く膝を伸展するよう教示された.筋力計測は3分以上の休憩を挟んで3回を1パッケージとして1日に2パッケージのテストを1週間の間隔を空けて2日間実施した.筋力(force development: RFD)の最大値と随意最大筋出力(maximum voluntary force: F max)を用いた.被験者内再現性の分析には,級内相関係数(intra class correlation coefficients: ICC)を使用した.
第2研究
 アルツハイマー病患者10名を被験者とした(男性4名,女性6名,平均年齢90.0歳).被験者を通常の介護及び健康管理を実施する対照群と,筋力測定の結果に応じた負荷を用いてトレーニングを実施する介入群に層化ランダム割付を行った.トレーニングの初回時および10週後に,等尺性膝伸展筋力,10mの最大歩行速度および歩幅,Timed Up and Go Test (TUG)について評価した.
結果の概要: 第1研究
 RFD最大値の日内評価におけるICCは0.929(p<0.0001)だった.また,日間評価におけるICCは0.801(p=0.002)だった.F maxの日内評価におけるICCは0.979(p<0.0001)だった.また,日間評価におけるICCは0.885(p<0.0001)だった.
第2研究
 対照群では,全例において筋力の低下を認めた(トレーニング前平均101.2N; トレーニング後平均78.2N).一方,介入群では,完遂した全例において筋力の向上を認めた(トレーニング前平均124.2N; トレーニング後平均143.2N,標準偏差63.2N).10m最大歩行速度およびTime Up and Go Testについては,対照群と介入群に差を認めず,両群とも介入前後で同様の結果となった.
効果(成果): 第1研究の結果,アルツハイマー病患者におけるRFDおよびMVCに基づいた筋力計測は良好な披見者内再現性を有していた.そこで,第2研究では筋力測定の結果を基に調整された負荷量を用いて筋力トレーニングを実施し,その効果を検討した.その結果,通常の介護及び健康管理を実施した対照群では筋力の低下を認めたが,筋力トレーニングを実施した介入群では筋力の向上を認めた.ただし,10m歩行テストやTimed Up and Go Testでは,介入群と対照群で差を認めなかった.以上の結果より,アルツハイマー病を有した患者に対して,筋力計測の結果に基づいて定量化された運動負荷を用いた筋力トレーニングが有効である可能性が示唆された.しかし,歩行や立ち上がりなどのパフォーマンスを向上するためには,更なる介入の検討が必要であると考えられた.
開発した棒体操の効果-高齢者の転倒に関連する内的要因に着目して 横井賀津志 嘉誠会 山本医院 1,600,000
研究概要: 考案した棒体操の特徴は,新聞で作成した棒を,投げる,受け取るなどの動作を多用することで,高齢者が転倒にいたる直前のバランスを崩した状況を安全に体験できることにある.本研究では地域高齢者を棒体操群,属性をマッチングした対照群に分け,転倒の内的要因・本人の主観・転倒回数の観点から比較することで,棒体操の転倒予防への効果を横断・縦断的に明らかにする.
実施方法: 対象者は,研究参加に同意した一般高齢者であり,認知症がなく歩行自立していることを選出の条件とした.まず,33名(男性3名,女性30名)を前期群 (週2回6ヶ月間の棒体操を自宅で実施後,棒体操を中止し6ヶ月間経過を追跡)として選出し,その後,可能な限り基本属性を一致させた33名(男性5名, 女性28名)を後期群(6ヶ月通常生活後,6ヶ月間棒体操を実施)として選出した.介入の概要は図に示した.主要な結果指標は転倒・躓きの有無,副次的結 果指標は身体能力(握力,30秒間椅子立ち上がりテスト,ファンクショナルリーチ,落下棒テスト,Timed Up and Go Test, 5m通常歩行時間,5m最大歩行時間,長座体前屈),認知機能(MMSE,FAB,TMT),転倒不安感,CES-D,老研式活動能力指標とし,介入開始 前,1ヵ月後,3ヵ月後,6ヵ月後,7ヵ月後,9ヵ月後,12ヵ月後の計7回評価した.介入終了時には,棒体操実施についてのアンケートも実施した.

結果の概要: 追跡期間中,諸事情により5名(前期介入群2名,後期介入群3名)が介入中止となった.また,両群において男性数が少なかったため,女性のみを解析対象とした.最終的な解析対象者は,前期介入群29名,後期介入群27名であった.
 介入前の初回評価では,2群の属性(年齢,過去の転倒歴等)に差はなかった.さらに,16の結果指標中,通常歩行速度,TMTを除く14の指標において有意な差はなかった.
1)6ヶ月間の結果(前期群:棒体操実施と後期群:棒体操費実施の比較)
 この間に転倒を経験した人数は前期介入群において有意に少なかった(p<0.05),身体機能指標のうち30秒間椅子立ち上がり回数(p<0.05),ファンクショナルリーチ(p<0.01),落下棒テスト(p<0.01),TUG(p<0.05),長座体前屈(p<0.05)は前期介入群において変化量が有意に大きかった.また、転倒不安感,うつ尺度も有意に改善できた.しかし,認知機能の指標では有意差はなかった.
2)前期群と後期群における12ヶ月間の変化
 前項の有意な変化を認めた7種の指標は,棒体操開始後1ヶ月間で著明に向上し,6ヶ月間の棒体操終了後もその値に大きな変化はなかった.また,同様の傾向は後期群においても認められた.
 棒体操参加のアドヒアランスは9割以上と高値を示し,8割以上の者から負担なく楽しく実施できたとの感想を得た.
効果(成果): 棒体操実施中は転倒回数が減少すること,転倒の内的要因である静的・動的バランス,敏捷性,柔軟性が向上することから,転倒予防効果が期待できる.しかも,かなり短い期間でその効果が得られ,さらには一定期間の棒体操を行えばその後も継続的効果があることが示された.また,棒体操は一般高齢者にとって自宅で負担なく継続して実施できることも確認できた.
介護予防における予防的作業療法の効果-一般高齢者用プログラム開発と効果判定票作成 中村裕美 埼玉県立大学 900,000
研究概要: 介護予防一般高齢者施策がサービスを受ける者を虚弱高齢者に限定していないという利点を生かし,本研究では、障害や虚弱の有無に関わらず地域生活を営む一般高齢者を参加者とする.そして,予防的作業療法プログラムの開発と,効果判定票の作成を目的とする.本研究の最終目的は,地域在住高齢者の生活に対する包括的理解に基づいたプログラムと評価票を用いて,地域に根ざした作業療法のあり方を検討していくことである.
実施方法: 本プログラムを提供した施設の事務所長と利用者とで組織する運営協議会の承認を受けて,本プログラム参加者を募集した.本研究のプロトコルは,埼玉県立大学倫理委員会の承認を受けている.本プログラム参加者40名のうち,本研究への同意を書面で確認した23名のデータを分析に用いた.全員が独居生活を営む後期高齢女性であった.当該地域の行政課題に鑑み,筋力アップ教室への参加を希望しない高齢女性の体力維持と外出機会促進を目的に,体操やゲームを組み合わせて1回90分間,週1回提供した.月末にはプログラム終了後に誕生日会を実施した.評価には,当該地域の介護予防事業実施要綱に準拠して,要介護・要支援の危険性を判定する検診システムを用いた.この検診システムは,質問項目と標準化された身体機能テスト(握力,開眼片脚立ち,5m歩行)から成る.プログラムを2年間実施した.データ収集を,介入前,中期評価(介入6ヶ月,12ヶ月,18ヶ月),終了時(24ヶ月)に行った.収集したデータに一元配置分散分析を用いた.
結果の概要: 参加者は継続群13名(82.4±8.0歳),6ヶ月以上の中断期間を持つ再開群5名(86.6±7.9歳),中断群(86.6±6.4歳)の3群に分かれた.それら3群の群間を比較したところ,握力と歩行に有意差が見られず,継続群が必ずしも高い値となっていなかった.開眼片脚立ち,継続群が有意に高い値を示した.しかし,群を問わず90歳以上の者は全員が2秒以下であり,90歳以上の者はこの項目でのハイリスク群該当者であった.群内比較を見ると,継続性は握力を維持し歩行が改善した(p<.05).そして,開眼片脚立ちにわずかな改善が見られるものの優位な改善は見られなかった.
効果(成果): 歩行は,移動に必要であるばかりでなくQOLに影響を与える(坂田2007).本研究の参加者は23名のみであり,サンプル数が少ないという限界がある.しかし,継続群の歩行が改善を示していることから,本プログラムが歩行能力の維持や改善に一定の貢献を果たしていると思われる.身体諸機能と日常生活能力は加齢に伴い両者とも低下する(浅川2003)一方で,高齢期の歩行速度低下は,加齢そのものよりも,加齢に伴う筋量の低下にある(金ら2000)ことが明らかにされたことから,筋力アップ教室が推進されている.しかし,その教室への参加をためらう本研究参加者のような後期高齢女性に対し,継続した参加を支援でき,身体機能の維持・改善に寄与できるプログラムの提供が作業療法として求められているのではないかと考える.
健常者の食事動作における臨界視点の解析 鈴木由美 公立置賜総合病院 800,000
研究概要: 本研究では眼球運動計測装置とデジタル動画実時間同期収録装置(The Teraview)を用い,健常者が食物を口に運ぶ際の臨界視点(食具や食物から視点が途切れる点),及びその前後の動作を詳細に調査・解析し,その結果,食事動作時の視覚情報の影響とその動作特性を明らかにすることを目的とする.本研究は,将来的には食事動作に問題を呈する作業療法対象者の食事動作自立に向けた指導・援助を実施する上での一助となるものと考える.
 実施方法: 被験者は20~40代の健常成人15名であった.被験者に眼球運動計測装置のアイマークカメラを装着し椅座させ,眼前の机上に置かれた直径10cmの白い皿から食塊(約1.5cm角に切った食材)を爪楊枝で挿して摂食させた.対象実験・追加実験としてスプーンでお茶を摂取させた.摂食条件は,食材,食物量,視覚情報の有無を組み合わせた.被験者の接触状況の把握には,矢状面と頭上に設置したデジタルビデオカメラを用いた.被験者の臨界視点(食塊あるいはスプーンから注視が外れる点)の測定は矢状面画像,水平面画像,アイマークカメラを介して送られる被験者の瞳孔画像と視野画像の4つの画像を,デジタル動画実時間同期収録装置(以下,The Teraview)を用いて同期記録し,得られた1枚1枚の画像をパワーポイントに切り出していった.解析したデータはメモリースティックにて保存するとともに,ハードディスクにバックアップとして保存した.
結果の概要: 爪楊枝課題、スプーン課題のいずれにおいても臨界視点は測定できた.両課題を比較すると,爪楊枝がスプーンと比較して臨界視点距離は長かった.この臨界視点距離は眼球から測っているので,爪楊枝の臨界視点は眼からより離れている地点で視点が外れていることになる.食塊の大きさに対する差異はなかった.追加実験では,スプーンカップの中のジュースの量を10%,25%,50%,75%,100%変える条件と摂食速度を,遅速度(できるだけゆっくり摂食したときの速度),適速度(通常,摂食するときの速度),最速度(できる限り早く摂食したときの速度)の条件で,臨界視点とその距離の関係を調査した.ジュースの量を変化させた場合,最速度摂食動作では,臨界視点前の瞬時動作速度が増し,臨界視点後減少した.瞬時動作速度の分散値は,10%課題では臨界視点後のほうが大きかったが,その他の量課題では臨界視点前のほうが大きかった.最速度時では臨界視点前後の瞬時動作速度の分散値に大きな差はみられなかった.遅速度時は瞬時動作速度にかかわらず,臨界視点は動作の後半に認められる傾向があったが,瞬時動作速度の分散値に差はみられなかった.
効果(成果): 当初,臨界視点とは摂食動作中,視点が食具および食物を追随する最終地点であり,臨界視点までは接触動作視覚情報が利用されるものと仮定した.しかし,臨界視点前後の動作速度変化に明らかな特徴は見出せなかった.これらのことから,摂食動作時に対する視覚情報は,動作開始時に食物の量や位置情報を確認するために用いられるが,動作速度の調整に直接的に影響することは少ないものと結論づける.臨床場面においては,対象者の食事動作時は,対象者に対し食具や食物を「よく見る」ように促すことが多い.しかし,本研究結果からは「よく見る」ことを促すことが必ずしも動作の円滑さにつながるものではないことが示唆された.

 

平成20年度課題研究助成制度
課題研究審査委員会
     委員長 石川 隆志(秋田大学)(兼倫理審査委員会委員長)
     委 員 浅井 憲義(北里大学)
     委 員 澤田 雄二(札幌医科大学)
     委 員 新宮 尚人(聖隷クリストファー大学)
     委 員 平賀 昭信(介護老人保健施設 石黒爽風苑)
     委 員 茂原 直子(南大阪療育園)
     委 員 吉川 法生(星城大学)

課題研究倫理審査委員会
     委 員 小林 正義(信州大学)
     委 員 加藤 朋子(埼玉県立大学)
     委 員 小林法一(首都大学東京)
     委 員 堀田 英樹(国立精神・神経センター武蔵病院)

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