オペラ18号
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障害者が現在持っている能力に合わせる本当の福祉は、モノと心の両方の幸せをつくるはじめ、福祉の専門家に入ってもらい、仕事をおぼえてもらうように親切に教えたが、思うような結果は得られなかった。障害者が現在持っている理解力に合わせて、なんとかできないか、と考えた。そんな折り、誰も交通事故にあうことなく自分で出社していることから、交通信号の色の識別はできることに気づいた。そこで、次のようにしてみた。まず、チョークの材料を袋ごと大きな缶に入れ、ひとつは赤く塗り、もうひとつは青く塗る。必要量のおもりも、ひとつは赤く塗り、もうひとつは青く塗る。そして、赤い缶に入った材料を量るときは赤いおもりを載せ、青い缶の材料を量るときには青いおもりを載せる。材料を練る際には砂時計を使い、スイッチを押して、砂時計の砂が全部下に落ちたら、スイッチを切る。数字や文字ではなく、ほぼ色の認識をもとにした作業工程である。「一発でできて、彼はニコッと笑いました。マネージャーにほめられて、自分が必要とされていることを感じて、ドンドン仕事に集中していきました」作業療法の専門家が考えるべきことを、大山会長たちは考えたわけだが、「それが企業の使命です」と言う。それは、大山会長の「企業観」によるところが大きい。構内に「働く幸せの像」が建てられていて、そこには、偶然出会った禅寺の導師の言葉を引きながら、次のように刻まれている。「導師は人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役に立つこと、人から必要とされることの4つと言われました。 ここは、日本理化学工業の川崎工場。20人ほどの人がテキパキと働いている。材料の練り合わせから始まって、何本もの柔らかい棒状のものができ、それがチョークになって、JIS規格の検品と梱包までの作業が行われている。1日10万本のチョークが生産され、北海道の美唄工場と合わせると1日20万本。国内シェア30%以上を誇るチョークのトップメーカーである。 日本理化学工業は、知的障害者が働く場としても知られる。全社員76人のうち57人が知的障害者で、うち約半数はIQ50以下の重度の障害者という。それは、今から50年以上も前の昭和35年、2人の知的障害者が就職したところからスタートした。 日本理化学工業株式会社会長の大山泰弘さんに、話をうかがった。JAPANESE ASSOCIATION OF OCCUPATIONAL THERAPISTS 6(日本理化学工業株式会社会長)赤い缶に入った材料を量るときは、赤いおもりを秤に載せて、色を合わせて量る日本理化学工業大山泰弘さん知的障害者が企業で働ければ〝四方一両得〟

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