機関誌『日本作業療法士協会誌』

日本作業療法士協会へようこそ

 新年度が始まり、1ヵ月半が経ちました。新たに会員になられる方も多いこの季節ということで、今回のトピックスでは新入会員の皆さんに向けて「協会とあなたとのかかわり」について解説いたします。また、新入会員の方のみならず、既存の会員の皆さんにとっては、周りにいらっしゃる未入会の方、学生等に向けて本会について説明する際に本記事を活用いただければ幸いです。

作業療法士が役に立つ専門家であるためには

 作業療法士は国家資格です。国家資格は、国がその仕事の専門性に必要性と有用性を認め、法律で定めた資格です。ですから、作業療法士の資格をもっているということは、あなた個人の人生にとって利益があるだけではなく、公の利益となることが期待されています。作業療法士となったからには、いつも自分の存在の公益性を自覚し、それに誇りと責任をもってほしいと思います。
では、作業療法士が社会の役に立つためには、どんなことが必要でしょうか。医療技術は日々進歩していますし、保健・医療・福祉の法律や制度も大きく変化し続けています。作業療法の分野でも新たな知見や研究成果が次々と発表されています。対象者も、10年前の高齢者と10年後の高齢者では世代も異なり、興味関心もメンタリティも大きく異なっているかもしれません。子どもを取り巻く環境も、自分が子どもだった時代とはまるで違ってきています。
 そんな、めまぐるしく変化する現代社会のなかで、作業療法士が本当に役立つ専門家であるためには、最新の学術的な研究やその成果にいつもアンテナを張りめぐらせておくことが必要です。また、今の法制度で求められている知識と技能をどんどん身につけて、常に最高水準の専門性を発揮できるような準備をしておくことも求められるでしょう。
さらに作業療法士がその専門性を発揮できるためには、適材適所、本当に必要とされている場に、必要な数だけいなければ意味がありません。そのためには、法制度や報酬の点数を変えて作業療法を導入しやすい環境づくりをするほか、潜在的に作業療法士を必要としている利用者や他職種に作業療法士の存在や有用性をもっと知ってもらう努力もしなければなりません。

日本作業療法士協会の存在意義

 これらのことは個人レベルでできることもありますが、すぐに限界に直面してしまったり、その人だけの例外的な対応で終わったりしてしまいがちで、公に意味のある確かな結果をもたらすことにはなかなかつながりません。ここに日本作業療法士協会の存在意義があります。
 1966年に設立された本会は作業療法士の全国組織として各都道府県の作業療法士会と協力しながら、作業療法の学術研究の発展、作業療法士の生涯教育、作業療法士のための制度対策、作業療法の普及と振興、作業療法士の国際交流、作業療法士による災害対策等のためにさまざまな活動を行っています。これらの活動は、まず作業療法士全体の質と有用性を高め、その公益性を促進するために行われています。そうすることが国民の健康と福祉の向上に役立つと信じているからです。そして、こうした本会の活動が、結果的には(言わば副産物のようにして)、あなたの個人的な職業生活にとっても大きな利益となっているはずなのです。
次項からは、個々の会員の皆さんと本会とのかかわりが濃い、学術、教育について本会が行っていることをご紹介します。

作業療法(士)の可能性を切り拓く学術と教育

 本会は職能団体であり、学術団体でもあります。学会(学術集会)の開催、査読のある専門誌の発行、研究活動の奨励と促進、専門領域の枠組みの提示、定義や専門用語の整備・改定、介入効果を示す事例の組織的な集積、学術資料の体系的な整備等は、その専門職の学問的基盤をつくり、療法の効果や有用性を科学的に根拠づける、専門性の主張にとって本質的な営みであり、本会においても設立当初から大切にされてきた中心的な事業です。
 作業療法士にとって専門教育が重要であることは言うまでもありません。時代や地域を問わず、作業療法士であるからには身につけておかなければならない普遍的な専門技能がある一方で、同じ技能でも時代や社会の要請によって重点の置き方やそれを実現する場が変わってきたり、新しい技術や道具の導入によって習得すべき事柄が増えたり、特定の領域における特殊技能があったりします。学ばなければならないことは増えこそすれ、決して減ることはありません。
 学校養成施設における卒前教育が基礎になることは当然ですが、それはあくまでスタートライン。現役の作業療法士として働くためには、基本的技能を常に深化(進化)させ、時代に即応した知識と技能を習得し続けていくことは必須です。作業療法を必要とする方々に適切な作業療法を提供するために、作業療法士としてある限り、学び続けることが求められるのです。
そんな社会的要請に応えながら、会員の皆さんがプロとして継続的に技術を高めていけるよう、本会には生涯学修制度があります。そして、生涯学修制度に則って自己研鑽を続けた結果として、本会の認定資格である「登録作業療法士」「認定作業療法士」「専門作業療法士」が付与されます。これらを取得できれば、継続的な自己研鑽に取り組んでいることをアピールできます。
 なお、協会ホームページでは学術や教育について随時情報発信をしています。日本作業療法学会については学会の特設ページを設置しています。本誌でも、学会開催の数ヵ月前から学会の見どころやおすすめの参加の仕方を紹介する連載「学会NOTE」を掲載しています。生涯学修制度の詳細についても本誌の連載「2025年4月から新生涯学修制度がスタートします!~選ばれる作業療法士になるために~」で発信していますので、随時ご確認ください。

写真1 昨年度開催された第58回日本作業療法学会(札幌)の開会式の模様

写真2 昨年度、同じく札幌で開催した第8回アジア太平洋作業療法学会(APOTC2024)での一コマ。世界各国から作業療法士の「仲間」が多数参加しました

写真3 研修会のグループワークの模様

●第59回日本作業療法学会ホームページはこちら

●生涯学修制度のページはこちら

理念を共有する全国の会員があなたの仲間です

 以上、ご紹介したように、学術や教育を通じて自身の作業療法士としてのスキルアップを目指せることは、本会の会員であることの大きなメリットです。スキルアップのために本会に入会したという方も少なくないでしょう。あるいは、本号p.7~9でご案内している「作業療法士賠償責任保険制度」をはじめとした各種団体保険等、福利厚生にメリットを感じているという方も多いでしょう。
ですが、こうした具体的なメリットだけでなく、本会の会員であることには本質的な意義があります。それは、地域や世代を超えた会員があなたの仲間だということです。そして、私たちが仲間として共有したい理念があります。それが本会の基本理念です。

作業で暮らしに彩りを
作業(Occupation)はすべての人にとって大切な生活行為や心身の活動であり、
作業療法は作業を通して健康と幸福に寄与できるという確信が、私たちにはあります。
 
私たちは作業療法士の職能団体として、
常に質の高い知識と技術を保ち続けます。
常に最善の作業療法を探求し創造し続けます。
常に一人ひとりに寄り添い、必要な人に、必要な時と場で作業療法を提供し続けます。
 
そのさきに私たちは、小さな喜びも幸せに感じられる色とりどりな暮らしと、さまざまな人が自分らしく生きられる社会の実現に貢献できると考えます。

 基本理念は「こんな社会を実現したい」「協会の信念」「協会の使命」を表しています。右に基本理念とそのロゴマーク(図1)をご紹介します。このロゴマークは、本会の基本理念を会員も含めた多くの人に知っていただくために作成され、2025年度第1回定例理事会にて報告・紹介されました。抽象的なシンボルとするのではなく、「作業で暮らしに彩りを」という言葉を強調したデザインにしました。

いかがでしょうか? 皆さんは患者さん・利用者さんのために作業療法を提供したいと想い、作業療法士になられたはずです。そんなあなたのモチベーションと本会の基本理念には重なる部分が必ずあるはずです。また、「すべての人」には私たち作業療法士も含まれます。本会は患者さん・利用者さん、そのご家族や社会全体だけでなく、会員である皆さん一人ひとりに寄り添い、サポートします。

図1 基本理念ロゴマーク

誰もが主役 多様な協会へ

   会員の皆さん一人ひとりへの寄り添いとサポートとして、本会は「誰もが主役 多様な協会へ」というスローガンのもと、多様な会員の視点に立った会員のための協会活動、会員の誰もが参画しやすい協会活動を目指す取り組みを始めています。
   本会は年齢・性別・役割・経験等、さまざまな方が入会しています。また、皆さんが働く職場、領域もさまざまなように、作業療法士の職域は多様化が進んでいます。ですから、本会は皆さんの多様な背景を反映したものでなければなりません。そこでまずは、会員の代表として活動を担う役員や代議員の男女比のバランスを取ること(ジェンダー・クオータ制)を進めています。本会の役員構成は、本会設立当時の1966年は女性役員が約8割であったのに対し、1980年以降の女性役員は5割以下となり、2022年には女性2割、男性8割と逆転する状態となりました。また、代議員の構成も、代議員制が導入された2012年当初から女性代議員が2割以下という状況が続いています。
   一般的に、意思決定の場において少数派が無視できない影響を及ぼすようになる分岐点を「クリティカル・マス」と言い、30%がその基準的な数値であるとされています。つまり、特定の属性が30%以上を占めることが、多様性に配慮した組織として必要な条件であると言えます。今回の役員改選から「候補者クオータ制」を導入し、女性の候補者数30%を達成することができました。これを第一歩として、ジェンダーのみならず会員の皆さんの多様な背景を反映した誰もが参加しやすい協会のあり方を追求していきます。

主役は会員 一人ひとりがかがやける協会へ

 さて、クオータ制は役員や代議員にフォーカスを当てた取り組みですが、本会の主役はあくまで一人ひとりの会員です。したがって、主役である会員の皆さんが作業療法士としてずっとかがやき続けられることをサポートするのは、基本理念でも触れているように本会の使命と言うべきでしょう。そこで「誰もが主役 多様な協会へ」推進チーム内に「誰もが主役・かがやきプロジェクト」(図2)チームを設置して、福利厚生とはまた違った切り口での会員サポートを検討・実行しています。
 2024年度は「女性会員編」と銘打ち、仕事と家庭の両立について悩みを語り合って共有し、明日への活力を養うイベントをオンラインと対面にて1回ずつ開催しました。本会にはライフステージの変化が著しい20~30代の女性の会員が多くいらっしゃいますが、ご自身の生活の変化によって仕事との両立が難しくなり、悩みや不安を抱えている方も少なくありません。2024年度は20~30代の女性会員へ、協会としてできるサポートを検討しましたが、そこで得たお声を基にさらに対象を広げ、女性のみならずさまざまな背景の方のお悩みや不安を受け止めることができる協会を目指して、今後もプロジェクトを継続していきます。

図2 「誰もが主役 多様な協会へ」ロゴマーク

おわりに

 あなたの周りには、「協会に入らなくても自分一人の力でやっていける」と考える人もいるかもしれません。たしかに、一度作業療法士の資格を取ってしまえば、作業療法士として就職でき、医療施設であれば作業療法の診療報酬等を請求することができるようになります。しかし、そもそも今のようなカリキュラムで作業療法士になるための養成教育を受けられたこと、作業療法士として就職口があったということ、今の診療報酬制度のなかで作業療法の点数を請求できたこと等は、全国の作業療法士たちが一致団結してきた結果です。
 日本作業療法士協会という職能団体が、そしてそれを構成している会員の皆さん一人ひとりが、過去60年間、コツコツと実践を積み重ね、知見を取りまとめ、日夜集まっては未来を語り、知恵を絞り、国や関係団体との渉外活動に臨んで、作業療法士の有用性を示し続けてきた成果なのです。あなたも、あなたと同じようにこの職業を選ぶ将来の作業療法士の仲間として、彼らにより良い未来を手渡していただきたいと思います。

(事務局)