機関誌『日本作業療法士協会誌』

協会費の使いみち~メリット・デメリットを超えて~

この記事は、日本作業療法士協会誌 159号(2025年6月15日発行)のTOPICSのWeb版です。

 会員の皆さんには毎年12,000円の年会費をお支払いいただいています。ありがとうございます。
 決して少額とは言えないこのお金ですが、一体何に使われているかご存じでしょうか。今回のトピックスでは、この「会費」に焦点を当て、何のための会費なのか、会費というものについて考えてみたいと思います。皆さんはどう考えますか

会費は何に使われているのか

 以前、ある会員の方から「自分は機関誌はいらないから、そのぶん会費を安くしてもらえないか」という要望が協会事務局に寄せられたことがありました。しかし残念ながら、会費は機関誌『日本作業療法士協会誌』や学術誌『作業療法』の購読料ではありません。確かにそれら定期刊行物の制作にかかる諸費用や送料にも会費の一部が使われていますが、そもそも会費は、協会が会員の皆さんに提供するサービスの対価としていただいているわけではないのです。

あなたの会費が作業療法を盛り上げる

 本会は「作業療法士の学術技能の研鑽及び人格の陶冶に努め、作業療法の普及発展を図り、もって国民の健康と福祉の向上に資すること」を目的としている団体です(定款第3条)。ということは、協会が行うほとんどの事業が「国民の健康と福祉の向上に資する」ために行われているのです。
 協会の代表的な事業として、たとえば生涯学修制度があります。学びを通じて作業療法士の専門性を維持・向上できるように、その一つの手段として登録作業療法士・認定作業療法士・専門作業療法士という認定資格やさまざまな研修会があるのです。ですから、あなたが研修会を受講したり、認定資格を取得したりすることは、あなた個人の臨床能力を高め、キャリアアップになると同時に、あなたを含む作業療法士全体の資質の向上につながり、そういう資質にあふれた作業療法士が行う作業療法であればこそ、国民の健康と福祉の向上により一層貢献できるはずだ、と考えているわけです。
 対象者に常に最良の支援を提供することは、国家資格としての作業療法士の公的な使命です。作業療法士の生涯学修だけでなく、日本作業療法学会や学術誌等での学術研鑽、医療保険や介護保険制度、障害福祉サービス等のなかでの適材適所の配置や重点化、新しい職域の開発、利用者や他職種に対する広報や普及活動、内外関係団体との連携交流等、協会のすべての事業活動は直接的にも間接的にもこの公的な使命を達成することに向けて行われています。
会員一人ひとりの側だけだと、あなたは協会が提供してくれるサービスの“受け手”に過ぎないとみえるかもしれません。しかし、協会の目的と作業療法士の公的な使命というより本質的な観点からみれば、会員の皆さんは協会活動の主体つまり“担い手”であり、この使命を我が事として実現し、自ら推進していく当事者なのです。
 そしてこれら協会の事業活動を、この規模の団体に相応しく量的にも質的にも適切に実現するためには、それなりにお金がかかります。そのための資金となるのが、会員の皆さん一人ひとりからいただいている会費なのです。つまり会費は、会員一人ひとりがその構成員となって協会の公益的な諸事業を推進していくためのお金であり、自分と自分の組織、そして愛すべき作業療法そのものを盛り立てていくための言わば“拠出金”なのです。

会費収益は、何に使われているのか

1)2024年度はいくら使われた?
 それでは、皆さんの会費は何に使われているかを、もう少し詳しくみていきましょう。
2024年度の諸経費の合計額は9億2,295万8,000円。このうち事業費が4億3,175万5,000円、管理費が4億9,120万3,000円でした。もちろん諸経費は、皆さんからいただく会費収益額に基づき、それを超えないように予算案を立てて半年間にわたり調整を繰り返して決定されています。
 上に書いたように、協会が組織を維持し、事業を行っていくために使うお金、つまり諸経費は主に事業費と管理費に大別されます。事業費は、協会が定款第7条に掲げた公益的な目的の諸事業のために支出する諸費用。学術部、教育部、制度対策部、地域社会振興部、国際部、生活環境支援推進室、MTDLP室、制作広報室が事業を行ううえで使うお金です。管理費は、それ自体は直接的に公益目的事業のための出費ではありませんが、それなしでは公益的な事業を行うこともできない、日本作業療法士協会という法人組織を管理運営するための諸費用、言わば“ベースキャンプの設置代”のようなものです。

2)2024年度事業費を一人分の会費に割り当てると…
2024年度の事業費は、4億3,175万5,000円でしたが、このうち各部・室による内訳はどうなっていたのでしょうか。少し細かくみてみましょう。
1億円以上の事業規模をもつのは、学術部(1億674万7,000円)、教育部(1億142万4,000円)、制作広報室(1億6,405万5,000円)です。
学術部は学会運営という作業療法士の学術活動の中核となる事業をもちます。そのため、学会運営費が学術部事業費の半分近くを占めています。次に大きいのは、学術活動のもう一つの柱である学術誌『作業療法』を中心とした印刷製本費です。とはいえ、学術誌は現在、紙媒体は希望者の受注発行となり、経費削減も図られています。
教育部は、研修会に登壇する講師の方の旅費交通費や謝金、認定証や研修会資料の印刷費や配送費、研修会システムを支える通信費等、生涯学修制度のメインコンテンツである研修会にかかる経費が多くを占めました。ただし、今年度からは研修会資料がWeb化されますので、経費は削減されていきます。
制作広報室の事業費は、全部・室のなかで最も高額です。毎月約6万人の会員に配布している本誌や、ポスターやパンフレット等の印刷製本費や配送費が大きな支出となっています。また制作広報室の場合、これらの刊行物・印刷物の制作やさまざまな出展活動や協会ホームページの改修等にあたってプロのデザイナーや専門的な業者に委託することが多々あり、これらの委託費もかかっています。ただし、本誌については昨年度より徐々に電子化していく方向を模索しています。
今年度は前号から第163号(2025年10月15日)までの6回にわたってモバイル対応の電子版機関誌を発行します。今年度は「全会員に協会の情報を発信する」という点を重視し、試験的に紙媒体とモバイル対応電子版、PDF版の3種併用を試み、完全電子化に向けてのステップを築きます。近い将来、本誌が完全電子化された場合、制作広報室の支出の構造は大きく変わる可能性があります。
事業費の代表的な支出として、事業規模の大きい3部・室の支出について解説しましたが、ほかの部・室の2024年度事業費については表を参照してください。このように1億円、数千万円という金額は大きすぎて、皆さんの会費がどれぐらい寄与しているのか実感がわきづらいと思います。そこで、これを12,000円という一人分の会費額に割り当てると、皆さんの会費がどこにいくら使われているのかイメージしやすいと思います(表・図参照)。

3)皆さんの会費を効率よく使うための戦略
  さて、皆さんからいただいている会費は、皆さんが作業療法士として働くなかで生まれた汗と涙の結晶です。ですので、無駄なく効率的に使わなければなりません。そこで、協会は財務のあるべき方向性を明示した「財務管理指針」を策定し、2024年度第1回定例理事会(2024年4月20日開催)にて上程、承認され、同年5月25日の定時社員総会にて報告されました。
  この指針の目的は、会員の会費を主たる原資とする本会の資金が、定款および基本理念に沿って実施される本会の事業と組織運営のために適切に費消(運用)されるよう、その基本的な考え方を提示することにあります。具体的には、収支状況の把握と明確化、財政シミュレーションの実施、本会の方針(基本理念もしくは活動方針)に照らした事業選定、戦略的な意図や費用対効果を踏まえた資金配分、財務指標を用いた財務分析等、財務管理のあり方や方法の骨子を示します。
この指針のもと、財務に関する外部専門家を交えた戦略会議を随時開催して、効率的で望ましい財務施策を検討し、予算案策定に反映していきます。既に財政戦略会議で議論が進んでいます。

会費を払うメリットvsデメリットを超えて

  「会費を支払うメリットは何か?」という問いを時々耳にします。この問いに対して、会費を払い、協会員であることのメリットとして「学会や研修会に参加できる」「機関誌等を通じて情報を得ることができる」等、具体的なメリットを挙げることもできます。一方で、「メリットを感じられないから」という理由で協会を退会していく方がいるのも(残念ながら)事実です。しかし、会費を支払いひいては会員であることはメリットがあるのか、デメリットは何かという考え方は正しいのでしょうか。正しいとも言え、正しくないとも言えますが、何か大切なことを捉え損ねてしまうように思いませんか?
  作業療法が何であり、それをどのように体得すべきかを、自分一人の力で究めた人はいません。
作業療法士として働く場があること、作業療法士の専門性が評価され、それに対する報酬が設定されていることを、自分一人の力で国と交渉して一から開拓し獲得した人はいません。 
  今のこの激動する時代に、作業療法士にどのような知識や技能が求められているかを、自分一人の力で調査し、情報を得、自分一人の力でそれに相応しい的確な内容と方法で自己訓練ができている人はいません。
作業療法の有用性を広め、その社会的信用を築くために、全国を行脚して普及・振興を一人だけで行っている人はいません。
これらのことはすべて、全国から作業療法士が集まり、本会を築き上げ、約60年の歳月をかけた組織的な取り組みを通して、学術的な知見を積み上げ、教育研修を通して専門職としての質の維持・向上を図り、その有用性の普及・振興に努め、全国組織であればこそ相手にしてくれる国や他団体に対して粘り強く交渉を重ねてきた成果なのです。
  約60年前に灯ったともしびはたしかに大きくなりました。しかし、大きくなったからとはいえ、その火は未来永劫消えることがないという保証はどこにもありません。これからも作業療法士という専門職があるかぎり絶えず、あなたが選び、愛し、誇りに思っている作業療法を盛り立て続けていかなければなりません。
  「会費を支払うメリットは何か?」という問いに戻りますが、一般的な商品やサービスを買うのであれば、その価値に対して価格が安ければ安いほどお得です。個人の損得勘定でいうところの“お得感”としてのメリットなら、そのようなメリットはさほど大きくないかもしれません。しかし、メリットとは“コスパ”だけで計れるものではないということも、あなたは直感しているかと思います。つまり、あなたが今作業療法士として働いていること、そして、あなたが作業療法士であることが多くの患者さん・利用者さん・ご家族・地域住民の方々の役立っていること――これこそが“コスパ”では計れない最大のメリットではないでしょうか。そして、このことは、作業療法士という専門職が存在することの善さ、作業療法の存在意義に向けて昇華していくものであるように思います。会員の皆さんから拠出していただいている会費はその善さをさまざまな側面から実現していくためにこそ使われています。協会のこうした役割を果たせるよう、あなたの会費が正しく使われているか注視していただき、ご意見もいただければ幸いです。

(事務局)
小数点第2位で四捨五入しているため、端数に誤差が生じますのでご了承ください。