機関誌『日本作業療法士協会誌』

日本作業療法士協会会長就任のご挨拶

この記事は、日本作業療法士協会誌 160号(2025年7月15日発行)のTOPICSのWeb版です。

はじめに

 2025年5月31日、定時社員総会で会長候補者として選出され、引き続き行われた臨時理事会において会長に選定いただきました。身が引き締まります。本稿では、前任期の協会活動の一部報告と今後に向けた目標等について述べさせていただきます。

2023~2024年度(前任期)の振り返り

 2023年に会長となり、2年が経過しました。その期間、忘れてはならないことは「能登半島地震」。北陸三県や新潟県等、特に能登半島に関しては甚大な被害となったことは言うまでもなく、1年以上を経過した現在でも、復興が進んでいない場所も多々あります。いまだに避難を余儀なくされている方も。あらためて被災地の皆様、関係者の皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。本会の災害対策本部は、復興支援としてさまざまな事業展開を進めてきました。「石川県作業療法士会役員と協会災害対策本部員による対面会議(金沢)」、「被災経験のある都道府県士会員と石川県作業療法士会役員との情報交換会」等の8つの企画支援。そして1年3ヵ月が経ち、2025年4月15日、石川県士会とのWeb会議にて災害支援の今後の方針について話し合い、そのうえで4月19日の理事会をもって、災害対策本部は解散としました(財政的支援体制等は継続)。石川県士会の皆様、そして災害対策室員・担当事務局の皆様に深く感謝申し上げます。
 一方、第8回アジア太平洋作業療法学会(APOTC2024)が開催されました。32ヵ国・地域から2,000名以上の作業療法士・学生が参加し、APOTC史上最多の参加国・参加者数。世界へまた一歩前進です。企画・運営等、日本の作業療法士らしい「おもてなしの心」が行き届いた温かい学会でした。開催初日には紅葉のなかで新雪が薄く積もりました。その後は秋晴れに恵まれ、今の日本の季節を肌で感じられる印象的な4日間となりました。運営に携われたすべての皆様に感謝申し上げます。
 生涯学修制度については理事会等で何度も議論を重ね、登録作業療法士制度を2025年度4月より始めることができました。「標準的な作業療法士の質と量を担保していくこと。報酬制度(加算・要件等)につながる関係省庁への要望を裏付ける根拠とすること(認定・専門含む)、他関係団体の各種資格認定制度等の要件に組み込んでもらえるような一定水準の質を確保すること」という大方針も立てられ、近い将来には登録作業療法士は3万人以上(会員6万人の場合)、認定作業療法士は8,000~1万2,000人(対象が会員6万人の場合)になる予定です。臨床作業療法の質の担保になるよう、皆で力を合わせましょう。
 また、2024年度はトリプル改定でした。重ねて、物価高騰等による療法士の賃金アップの要望はリハビリテーション専門職団体の共通の課題であることから、3療法士が結束を高めて渉外活動を活発化させ、行政へ、他団体へ、そして政治活動による要望と、これまでと異なる手法を取り、多角的な要望戦略を展開しました。満点とはいきませんが成果はあったかと存じます。
 「未来に作業療法を残す」ことが、国民にとって必要なことであり、私たちにとっては命題でもあります。引き続き、受け継いだ事業をさらに展開して参ります。

2期目の決意

1期目に挙げた公約については、2025年度からの2期目も継続することとします。
 ①作業療法士の臨床力を確かなものにします
 ②社会保障を守り、職域を拡大します
 ③会員個人―職域(勤務先)―各都道府県士会―学校養成施設―本会の組織力を確固たるものにします
 ④事務局は、迅速・正確・良質で部署横断的な機能を強化します
 臨床の作業療法の質は、日本作業療法士協会が守ります。
 先述した生涯学修制度については、本会内各部署や他団体等とのさらなる連携の下で加速しなければなりません。その理由は、有資格者が10万人を超えていること、さまざまな団体において各種修了制の資格制度とそのための研修が乱立していること、診療報酬や介護報酬における財源が頭打ちになってきている国の事情、本会の認定制度修了者数の少なさ(認定作業療法士数1,719名、専門作業療法士数162名。2025年6月1日現在)等です。
 日本作業療法士協会は、現場のためにあります。現場とは、臨床です。そこに私たち作業療法士の存在価値があります。私たちだからわかることがあります。そして、できることがあります。その臨床力を、日本作業療法士協会が保障します。登録作業療法士を標準的な臨床の軸として、その確固たる仕組みと体制づくりを強化します。それが対象者への支援の質の向上となり、社会保障制度の絶対的な保証となります。そして職域の拡大、ひいては作業療法士の社会的地位の向上にもつながります。
 作業療法技術を磨く――心身機能、活動と参加、個人・環境因子を診る。総合的でありつつ、対象者の個別性に対応する作業療法を展開しましょう。
 特に、今任期においては、地域リハビリテーションにおける作業療法の推進、就学前後における子ども支援、認知症の方への作業療法の普及、就労への作業療法、災害リハビリテーション、メンタルヘルス等に注力します。さまざまな地域で、さまざまな場面で活躍できる作業療法士を。このことは対象者において、在宅復帰だけでなく、個人が選択する環境へ羽ばたくことにつながります。やりましょう、作業療法を。

2025年度の重点活動項目

 2025年度は第四次作業療法5ヵ年戦略(地域共生社会5ヵ年戦略・組織力強化5ヵ年戦略)の3年目の年となります。現5ヵ年戦略は、「人々の活動・参加を支援し、地域共生社会の構築に寄与する作業療法」を目指しています。重点活動項目はこの継続的な取り組みのなかに位置付けられるため、その構造に即した項目立てを行い、特別重点項目を加えて整理しました。今年度は、都道府県地域事業への参画と推進人材の育成や診療報酬における両立支援への位置付け強化、卒前・卒後の学びの場の充実や次世代向け広報等を通した組織力強化、5歳児健康診査における作業療法士の特性を生かした参画等に取り組みます。

渉外活動の強化

 渉外活動のためには、まず私たちの団体そのものが強くあるべきです。私たちの強さの基本は、「作業療法の臨床」です。そして、臨床があってこその「研究」です。この2つによって「成果」があります。成果なくして「渉外活動」はありません。渉外活動なくして「社会保障」はありません。社会保障なくして「社会的地位」はありません。そのように考えています。
 前期はトリプル改定であったこともあり、渉外活動を拡大した経緯があります。今期に関しては、リハビリテーション3療法士会長会議、リハビリテーション専門職団体協議会、全国リハビリテーション医療関連団体等を通じて、厚生労働省等の関係部署へさらに働きかけます。そして政治活動にも力を入れます。今年度、日本作業療法士連盟も新体制になりました。今後は本会と連盟が両輪となって、スクラムを一層強化します。政治活動は選挙運動ではありません。職能団体として必要な活動です。これまで通りに以下の3原則を守ります。
 ①特定の議員や政党を支持するものではない。
 ②会員個人の思想信条の自由を侵すものではない。
 ③本会の目的達成に必要と考えられる範囲と対象に対して行われるもの。
 これらは遵守すべきこととして、本会・各都道府県士会、連盟の関係者でしっかりとした共通理解のもと、活動いたします。
 行政へ、他団体へ、そして政治活動による「総合的な渉外活動」を加速します。ご理解とご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

おわりに

 日本をリハビリテーションで、そして作業療法で元気にすること。私たちにできることをしっかりと進めていきましょう。そして、対象者の生活に寄り添うことを、これからも変わらず作業療法の中心に据えていきましょう。
 「作業療法士だからわかること、作業療法士だからできることを実践する」。これは、私の信条でもあります。専門職としての自覚をさらに深めつつ、臨床に励んで参りましょう。皆で成長し、「今」があります。2040年問題に向かって、地域共生社会をともに創りあげるべく、これからも手を取り合っていきましょう。
 結びになりますが、会員の皆様、関係者の皆様、そして何より作業療法を必要としてくださるすべての皆様の未来を祈念して、私からの挨拶とさせていただきます。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。

(会長 山本伸一)