機関誌『日本作業療法士協会誌』

世界作業療法士連盟(WFOT)がもたらす変化―グローバルに広がり、つながる想いと実践―

この記事は、日本作業療法士協会誌 162号(2025年9月15日発行)のTOPICSのWeb版です。

 世界作業療法士連盟(以下、WFOT)は、国際的な作業療法の発展と質の維持・向上を目的に1952年に設立され、2025年8月現在、111の協会が加盟しています。日本は1972年から正加盟しており、アメリカに次ぐ作業療法士数を有する2番目に大きい協会として、WFOTの活動に参画しています。また、4年に一度、WFOT大会も開催されていることは会員の皆さんもよくご存じのことだと思います。しかし、WFOTが具体的にどのような活動に取り組んでいるか、わかりにくい部分もあるかもしれません。そこで、本稿ではWFOTについて会員の皆さんに改めて概説します。

“Occupational therapy is accessible to all”

 すべての人に届く作業療法を目指して
 WFOTは、ビジョン「Occupational therapy is accessible to all」を達成するため、下記4つの柱を軸に活動しています。

Ⅰ Leading as the global professional association for occupational therapy(作業療法の世界的な専門団体として主導的役割を果たす)
Ⅱ Advocating for health and wellbeing through occupational engagement(作業参加を通じて健康と幸福を促進する)
Ⅲ Furthering access to occupational therap(作業療法へのアクセスの向上)
Ⅳ Advancing and promoting occupational therapy(作業療法の発展と普及)

 WFOTは世界の作業療法士協会・作業療法士、そして作業療法を必要とする人々のために、世界保健機関(WHO)や医療専門職団体(World Health Professions Alliance)等の国際機関の理事会や各種会議への出席、声明文の発出等のさまざまな渉外活動を通して、専門職としての持続的な地位の確立に取り組んでいます。そして、作業療法の国際的普及と発展のため、WFOT教育チームの積極的な支援により、作業療法が発展途上のアフリカやアジアの国々でも養成プログラム(直近ではアルメニアとチュニジア)が次々と誕生しています。それに伴い正加盟および準加盟の協会は年々増加しており、専門職団体としての強固な国際的ネットワークを構築してきています。
 組織の拡大・事業の拡充が行われると同時に、作業療法の質の担保と専門性向上のための活動として、国際的な教育基準の策定と改訂(後述)、研究活動の推進、作業療法の質の評価ツールの作成も行っています。また、WFOTが配信するオンラインコースには、climate migrants(気候変動によって避難を余儀なくされた人々)、displaced persons(紛争等で住んでいる場所を追われた人々)、disaster preparedness and risk reduction(災害対策・災害リスクの軽減)等のテーマが扱われています。WFOTの数々の活動をみると、持続可能な開発目標(SDGs)が目指す「誰一人取り残さない」原則にも通じる、WFOTの強い意志を感じます。
 国際組織として発展するなかで、WFOTの財務状況や活動内容の透明性を保つために、各加盟協会にはある意味でWFOTを“監査する”役割として、「WFOT代表(Delegate)」およびその代理となる「Alternate(第1代理と第2代理)」という役職が設けられています。WFOT代表は、本会の理事会から全権を委任された代表としてWFOT との渉外活動の責任を負い、WFOT 総会へ出席し、本会代表として議決権を行使するとともに、その結果を本会理事会に報告する役割があります。
 本会のWFOT代表と代理は大庭潤平(副会長)、高橋香代子(常務理事)、上梓(国際部統括課長、事務局員)が務めています。

世界がつながる変化の1年

 2025年7月、WFOTの「作業療法の定義」の改定がありました。2026年2月にはWFOT大会(タイ)が開催され、そして作業療法士教育の基準の改定も進められています。世界で働く作業療法士にとって、そして将来の作業療法士にとって、今年は非常に大きな1年となります。

1)WFOTによる「作業療法」の新定義
 このほどWFOTが改定した新しい定義は、下記のとおりです。また、参考に以前の定義(WFOT2012)も掲載します。

●新定義(WFOT2025)
Occupational therapy promotes health and wellbeing by supporting participation in meaningful occupations that people want, need, or are expected to do.
(作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されている意味ある作業への参加を支援する。)

【参考】以前の定義(WFOT2012)
Occupational therapy is a client-centred health profession concerned with promoting health and wellbeing through occupation. The primary goal of occupational therapy is to enable people to participate in the activities of everyday life. Occupational therapists achieve this outcome by working with people and communities to enhance their ability to engage in the occupations they want, need, or are expected to do, or by modifying the occupation or the environment to better support their occupational engagement.
(作業療法は、作業を通して健康と安寧を促進することに関心をもつ、クライエント中心の健康関連専門職である。作業療法の主な目標は、日常生活の活動に人々が参加できるようになることである。作業療法士は、 人々や社会の人と一緒に、彼らがしたいこと、必要なこと、期待されることに関する作業ができるようになることをしたり、彼らの作業へのかかわりをサポートするために環境や作業を修正したりすることで、アウトカムを達成する。)

2)これまでの検討の流れ
 多様な文化的・歴史的背景をもつ世界の作業療法士協会が所属するWFOTは、「作業療法」の新たな定義を検討するにあたり、包括的でその時代の変化を反映した国際的な視点を取り入れることを重視していました。遡ること2022年、WFOT代表者会議にて定義改定の必要性が提案されました。2012年の定義に対して「“client-centered”はもう広く使われておらず、対象者個人にフォーカスがあてられ、作業療法のソーシャルアプローチに合致しない」「現代の作業療法士の多くは自身を“health professionals”と捉えていない」等の意見が加盟協会から寄せられました。そして2024年WFOT代表者会議において、改訂第1案 “Occupational therapy enables people to participate in everyday activities or occupations they want, need or are expected to do”が提示されました。42の加盟協会からフィードバックがあり、大半の加盟協会が賛成だったものの、7協会から反対意見がありました。その後、以下の3点をポイントに、改訂案のさらなる見直しが行われました。
・State the relationship of occupational therapy and health and wellbeing;
(作業療法と健康と幸福の関係性を記載すること)
・Include the importance of inclusion of occupational participation as meaningful;
(作業参加を意味あるものとして位置付け、その重要性を含めること)
・Avoid terminology such “enabling” that may have different meanings for some people
(「enabling」は人によっては異なる意味を持つ恐れがあるため、使用を避けること)
 そして3年間の検討を経て、2025年6月に新たな改訂案が提示され、加盟協会による投票の結果、承認されました。

3)新定義(WFOT2025)の和訳
 本会では、WFOTの意図や意志を会員の皆様にお伝えするために、本定義を含めたWFOTの資料(声明文、ガイドライン等)を日本語訳し、公開しています。作業療法特有の専門用語や表現を日本語/英語訳する際には、過去そして最新の既存の訳を参照しながら、WFOTでの数年間に及ぶ加盟協会との審議の流れをくみ取り、国際的な作業療法の発展動向とその時代に即した適切な言語的表現を考慮し、文脈に応じて意訳を含めた柔軟な対応を行っています。
 “want, need, or are expected to do”の表現には、さまざまな訳し方があります。作業療法士には、対象者が望む作業を“できるようになる”ために支援する役割があり、対象者の具体的な目標達成や作業遂行の意味をより明確に表現するために、「できるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されている」と訳しました。そして、日本の「作業療法」の定義の註釈にも「作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されていることなど、個別的な目的や価値が含まれる(“Occupations” are activities that a person wants to, needs to, or is expected to do, and have purpose and meaning for each person)(2018年8月理事会で英訳承認)」とあります。会員の皆様がWFOTによる新定義をどのように受け止められるかはそれぞれ異なるかと思いますが、その多様な受け止め方が今後の作業療法の発展のためには重要です。「作業療法」についてディスカッションを深めていただくための一つの解釈として、参考になればと思います。
 今回のWFOTによる作業療法の定義とその和訳は会員からの意見を踏まえて、国際部で検討・作成され、2025年度第3回定例理事会(2025年8月23日開催)にて審議のうえ承認されています。

10月27日は「世界作業療法の日」です

 9月25日は日本の作業療法の日ですが、世界作業療法の日は、WFOTによって2010 年 10 月 27 日に初めて制定されました。それ以来、この日は国際的に作業療法を推進する日として重要な役割を担っています。世界作業療法の日は、専門職としての認知度向上や、国内外に WFOT の活動を展開する絶好の機会と言えます。

1)今年の世界作業療法の日のテーマ
 世界作業療法の日には、毎年テーマが定められており、今年のテーマは「Occupational Therapy in Action(作業療法を届ける)」です。力強いメッセージ「in Action」とテーマの背景「active efforts of occupational therapists across the world to engage people in meaningful activities and participation」(世界の作業療法士が積極的に取り組むことで、人々の意味ある活動への参加を促進する)には、WFOTのどのような想いが込められているのか想像してみました。「世界中の作業療法士が、 作業療法のもつ力を信じて実践している! 作業療法の力を必要としている人/届けたい人に届けたい。その人にとって、意味ある活動に参加してもらいたい」という熱き想いを感じます。

2)一緒にお祝いしましょう!
 世界作業療法の日は、世界中の作業療法士にとっての大切な記念日です。作業療法の日の今年のロゴマークを SNSのアイコンにする人や、#WorldOTDayのハッシュタグで書き込みをする人も多くみられます。世界では障害のある子ども達を対象にした地域のアダプテッドスポーツイベントにあわせて作業療法をプロモーションしたり、この日に合わせてWFOTの「Occupational Narratives Database Project」(https://occupational-narratives.wfot.org/)に自身が好きな「Occupations」をナラティブとして投稿したりしています。
 2026年2月にはWFOT大会(タイ)が開催され、世界の作業療法士が一堂に集います。ぜひ、この1年間、世界の作業療法士達と一緒に、「作業療法を届ける」ことを意識してみてください。

「世界作業療法の日」ロゴ

●各国の言葉で書かれた世界作業療法の日ロゴマークはこちら

Occupational Narratives Database Projectの様子

WFOTの作業療法士教育の基準が10年ぶりに改定されます

 2026年2月、WFOTの作業療法士教育の基準(MSEOT 2016)が改訂されることとなりました。
 このMSEOTは、理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則および理学療法士作業療法士養成施設指導ガイドラインと同様に、本会の「作業療法士教育の教育水準」を満たす内容として含まれることになります。
 こちらも作業療法の定義同様、数年間かけて加盟協会に対するヒアリング、WFOT理事会で協議、外部コンサルタントによるレビューが行われ、2025年9月に実施する加盟協会の代表へのオンライン説明会(質疑)を通して、最終的に2月に開催される総会で決議される見込みです。未来の作業療法士にとっても重要な改定となります。

おわりに

 本稿の結びとして、本会のWFOT代表・大庭潤平氏と第1代理の高橋香代子氏からのメッセージをお届けします。既にWFOTの個人会員として入会されている方は、会員であることの意義を再確認していただき、まだ入会されていない方はぜひ入会を検討してください。昨今の世界経済の情勢やWFOTの組織体制の変化から2026年度と2027年度のWFOT個人会員の会費が約30%値上げされます(WFOT個人会員の皆様には9月中にハガキでのご案内を予定しております)が、その価値は十分にあることでしょう。

◎WFOT大庭潤平代表
 皆さんは、「私はどんな作業療法士になりたいのだろう?」「作業療法って何?」と考えたことはありませんか。そのヒントの一つとして、「世界の作業療法を知る」ことをお勧めします。世界中には、さまざまな環境や文化で生活し、多様な価値観をもつ作業療法士がいます。そんな作業療法士達と交流することは、あなたの作業療法を成長させてくれます。
 2026年2月にはタイ(バンコク)で世界作業療法士連盟大会、2028年5月(予定)には韓国(スウォン)でアジア太平洋作業療法学会が開催されます。ぜひ参加してみましょう! 
 本会は海外研修助成制度等のさまざまなサービスで、皆さんの国際交流を応援しています。また、これからもWFOT情報は本誌や協会ホームページで発信していきますので、ぜひ注目してください。

◎WFOT高橋香代子第1代理
 WFOTには「作業療法は人の健康と幸福に寄与する」という信念があります。ですので、WFOTの役員や代表者には、作業療法が大好きな作業療法士が集まっています。そんな作業療法士達がたくさんの議論を重ねてつくり上げた作業療法の新しい定義、皆さんはどのように受け止められたでしょうか? 作業療法の無限の可能性を信じ、そのなかでも専門性である「作業の可能化」に焦点を当てた今回の定義改定には、世界中の作業療法士の熱い想いがこもっています。この定義をどのように読み取り、日々の臨床に活かしていくのかは人それぞれですが、皆さんが「やっぱり作業療法っていいよね」と感じていただける定義であれば嬉しく思います。

(国際部)