機関誌『日本作業療法士協会誌』

「協会員=士会員」実現のための新方策 ―「協会員=士会員」を目指すということ―

この記事は、日本作業療法士協会誌 165号(2025年12月15日発行)のTOPICSのWeb版です。

 

 本誌第143-144合併号(2024年2月15日発行)に掲載した「トピックス:『協会員=士会員』実現のための方策と工程表」にて、2023年度第6回定例理事会(2023年12月16日開催)において可決・承認された「協会員=士会員」実現のための方策案を紹介しました。この方策案は2027年度導入を目標としており、それに向けて本会と47都道府県作業療法士会との間で合意形成が進められてきました。その過程で、本会と47都道府県士会は「協会員=士会員」の意義を共有しつつも、具体的な方策案については、これを導入することでその法人のポリシーに反することになる等、いくつかの本質的な理由から合意することが困難である士会があることもわかりました。そこで、方策を練り直し、新方策のもとで改めて「協会員=士会員」の実現を目指すこととなりました。2023年度に提示した方策案に代わる新方策の要点は、以下の2点です。
 ①できるだけ多くの士会に、できるだけ早い時期に、協会が提供している士会システムを使って士会員の会員管理を行う体制に移行する。
 ②できれば定款、難しければ定款施行規則等のレベルでもよいので、『協会員=士会員』とする規定を整備し、運用する。
 本稿では、10月25日・26日に開催された2025年度日本作業療法士協会及び都道府県作業療法士会48団体連携協議会(よんぱち)第2回協会長・都道府県士会長会議にて谷川真澄本会副会長が発表した「『協会員=士会員』を目指すということ」全文を掲載いたします。ぜひご一読いただき、「なぜ『協会員=士会員』を目指すのか」という意義に立ち返りながら、実現のために今、どのような方策へと転換し実行しようとしているのかをご理解いただければ幸いです。

別法人、されど目的は一つ

 日本作業療法士協会と、47都道府県の各作業療法士会は、それぞれ独立した法人です。法人ごとに、対象とする地域や、その地域における課題は異なり、会員の人数や、事業の規模も大小さまざまです。しかしながらこの48の団体は、いずれも作業療法士を構成員とする職能団体です。国家資格である作業療法士としての役割をしっかり果たし、国民の健康と福祉に寄与する――この目的においては一致しています。

「協会員=士会員」の根っこ

 元を正せば、協会の旧・定款施行規則に次のような条文がありました。「各地方における作業療法の普及発展を図るため、正会員は、都道府県ごとに作業療法士会を構成する。」という規定です。協会の会員はこれに基づいて、1970年代から80年代にかけて都道府県ごとに士会を組織化していきました。
 この定款施行規則の規定から、2 つのことがわかります。一つは士会設立の目的です。それは「各地方における作業療法の普及発展を図るため」と表現されています。それぞれの地域の事情に即して、作業療法の普及・発展という課題に取り組むことが、士会設立の重要な目的として意識されていたということです。
 そしてもう一つわかるのは士会の構成員のことです。「正会員は、都道府県ごとに作業療法士会を構成する」と規定されていることから、士会の構成員はもともと協会員だったのであり(注1)、協会員はおのずから士会員でもなければならない、ということがわかります。ここに「協会員=士会員」ということの根っこがあると考えています。

48の団体組織が一枚岩となって歩むために

 協会も士会も、最初は任意団体から出発して、徐々に法人化されていき、公益法人制度改革を機にすべての士会が法人格をもつようになりました。協会も各士会も、法人格をもってこそ、国や都道府県行政、関係団体や市民に対して、一つの責任ある団体として認められ、活動もでき、期待もされると言えるでしょう。
 一方、協会と士会との関係性という視点で振り返ってみますと、1994 年に「都道府県作業療法士会連絡協議会」が設立されました。これは協会と士会との連絡調整、また士会相互の連絡調整を行うことが目的でしたが、その発展過程では、協会と士会がお互いに対立し合うような構図になった時代もありました。しかし世の中はそんなこととは関係なく、変化を続けており、作業療法士自体の存在意義が問われる状況が、あちらこちらに見られるようになりました。今も、あるいは今こそ、そのような事態は切迫していると言えるかもしれません。
 そこで協会は、改めて協会と各士会との強固な協力体制をつくるために、2014年に「47 都道府県委員会」を設置しました。この委員会の任務は、「わが国の作業療法士に対する社会的要請のうち、協会と士会が有機的に協働して応え、解決すべき諸課題に関して、認識を共有し、協会と士会との協力・支援等の方策を立案すること」と規定されていました。この委員会はとてもよく機能し、協会と士会の一体感がいっそう強まったと認識しています。
 とはいえ、この「47委員会」は、協会の予算で動く、協会の「中」の一委員会という位置づけでした。そこで、これをさらに発展させたのが、「よんぱち」です。「よんぱち」は2023年に設置され、正式名称を「日本作業療法士協会及び都道府県作業療法士会48団体連携協議会」と言い、協会と47士会が対等な立場で集合し、「連絡提携を緊密にして、協会と士会の円滑な運営と進展を図ることを目的」に掲げました。

改めて「協会員=士会員」を目指す

 ここに至って、協会と士会の連携・協力体制、そして同じ目的に向かって一緒に歩んでいこうという姿勢の共有は、「団体レベル」では、ほぼ確立を見たと言えます。しかし、それぞれの団体の構成員が、この動きについてきているか、団体としての動きと構成員の意識が一体化しているかというと、必ずしもそうはなっていません。「構成員レベル」では、協会にしか所属していない協会員、士会にしか所属していない士会員が少なからず存在しているのが実情です。
 しかし申し上げるまでもなく、作業療法士の働きには常に 2 つの側面があります。一面では、国家資格者として、全国共通の社会保障制度の下で働き、国民の健康と福祉の向上に貢献することが求められています。しかしそれと同時に、必ずどこかの都道府県に身を置き、そこの地域課題を背景に、個々具体的な現場で、日々の作業療法やその関連業務に従事しているという面もあります。一人の作業療法士が併せもっているこの 2 つの側面に対応しているのが、全国組織としての日本作業療法士協会と、各都道府県組織としての作業療法士会です。全国組織と都道府県組織とは、どちらか一方だけあればいいようなものではなく、果たすべき役割や課題、会員が得られる情報や受けられる研修等も異なることから、どちらも必要です。両者が密接に関係し合い、相互に補完し合って初めて、作業療法士という職業の存在感と存在意義を示すことができますし、その専門性を守り育てていくことができるのだと思います。したがって、作業療法士が全国組織と都道府県組織の両方に所属すべきこと――所属することが望ましいということは、単に選択の自由に基づいて自分が所属する団体を決めればよいという個々人の思いを超えて(注2)、作業療法士という国家資格者になったからにはその社会的責任から要請されてくることなのではないでしょうか。
 そのため、協会・士会といった「団体レベル」の連携・協力体制だけでなく、「構成員レベル」の一致、すなわち、構成員一人ひとりが協会と士会の両方に所属すること――「協会員=士会員」となることが強く推奨されているのです。これは先ほどご紹介した、協会員と士会員のそもそもの根っこ、旧・定款施行規則に掲げられた理念――「各地方における作業療法の普及発展を図るため、正会員は、都道府県ごとに作業療法士会を構成する。」という理念に叶うことであり、そこに立ち返ることでもあるのです。

「協会員=士会員」を実現するための当初の方策

 そこで協会は、この「協会員=士会員」を端的に実現するために、一つの方策を打ち出しました。それは、協会と士会の会費を一括徴収し、協会員と士会員の情報をシステムによって一元管理することを主眼とした方策でした。その最初の「原案」をお示ししたのが 2019 年です。その後、頂戴したさまざまなご意見や、各士会と行った協議・調整を踏まえ、2023 年には「修正案」をご提示しました。これについては各士会で真摯にご検討をいただきましたが、たいへん残念なことに、2024 年度末までに全士会の合意を得ることはできませんでした。この結果を受けて、協会としては、この方策案については断念せざるを得ないと判断するに至りました。
 多くの士会に合意いただけたにもかかわらず、「なぜ全士会がそろわないとこの方策が導入できないのか」というご質問をしばしば受けます。導入ができない理由を単純化して申しますと、この方策が「コンピュータシステムのプログラムによって会費徴収や会員情報を一元管理する」という方法を採ろうとしてきたからです。これは全士会が、一つのネットワークで、共通のルールによって有機的につながって初めて、整合性をもって動くことを想定しているものですので、ネットワークに参加できない、共通のルールをもたない、例外的な士会がありますと、全士会の有機的なつながりが破綻してしまうということが、改めてシステム構築の詳細な検討を繰り返した結果、わかりました。
 協会としては、最終的には全士会に合意していただけるであろうと想定しておりましたので、読みが甘かったと言われればそうかもしれません。初めにご提案した方策自体が、内容的に不十分であったり、リサーチ不足であったりした面もあるかもしれません。また、そもそも士会が設立され始めた当初から、「協会員=士会員」を維持することを強力に呼びかけてこなかったことも、今となっては悔やまれるところです。結果として全士会の合意を取り付けることができなかったこと、これについては重く受け止めており、お詫びするしかありません。
 しかし協会は、各士会が真摯に検討され、それでも合意できないという結論を出されたのであれば、そのご意向を尊重するしかありません。合意できない理由を伺いますと、それはそれで、その士会のお立場からすればごもっともなことだと受け止めざるを得ませんでした。純粋にテクニカルな問題であれば、方策の微修正によって解決することもできるでしょうが、法人のあり方にかかわるような問題で、さまざまな不安や困難があるなかでは、ご無理を強いることはできないと判断いたしました。

新たな方策の提案

 そこで協会は今年、2025年5月に、新たな方策をご提示しました。この新たな方策は、「会員管理や会費徴収は協会・士会それぞれで従来の運用を維持」することを前提に、「①できるだけ多くの士会に、できるだけ早い時期に、協会が提供している士会システムを使って士会員の会員管理を行う体制に移行していただくこと、②できれば定款、難しければ定款施行規則等のレベルでもよいので、『協会員=士会員』とする規定を整備し、運用していただくこと」を主眼としたものです。
 これは、当初の方策が「協会と士会の会費を一括徴収し、システムによって協会員・士会員の情報を一元管理すること」を主眼としていたことからすれば、確かに方策の転換です。しかしあくまでも方策(方法・手段)の転換であって、「協会員=士会員」を実現しようという従来の、そしてもともと目指していた目的自体を放棄したわけではありません。
 また、この新たな方策は、当初の方策から懸け離れた、全然違うものではなくて、むしろ当初の方策のなかに最初から含まれていたことであり、当初の方策どおりに進めようとしたら、当然クリアしなければならない事柄から成り立っています。したがいまして、当初の方策に合意いただけた士会には導入しやすいと思いますし、会費の一括徴収という条件は外していますので、当初の方策に合意できなかった士会も、この新たな方策であれば、一緒に取り組んでいただける可能性があるのではないかと考え、提案させていただきました。
 もちろん、この新方策とて、簡単に実現できるわけではないことは承知しております。特に「協会員=士会員」でない会員、すなわち士会にしか所属していない士会員が多数いる士会においては、大変なご苦労があることも予想されます。というのも、この方々に協会に入会していただかない限り、「両団体に所属している士会員」と「士会にしか所属していない士会員」がいることになり、この両者を管理しなければならないという、いわゆる「二重管理」状態が続いてしまうからです。ですから、できるだけすべての士会員に両団体に所属していただき、またこれを維持するよう、粘り強く働きかけていただいて、徐々に問題を解消していくことが一つの大きな課題になります。この点は士会によって状況がさまざまに異なると思いますので、「できるところから徐々に」進めていただければ、と申し上げている次第です。

【編編注】
(注1)
たとえば、広島県作業療法士会では創立時に「協会員ではない構成員」もいました。このことから、すべての士会において「士会の構成員はもともと協会員だった」とは必ずしも言えない場合もあるのでご留意ください。

(注2)
個人の選択の自由および、その個人が集まって団体を結社する自由の否定を意図するものではありません。

2025年10月に開催された第2回よんぱちにて「協会員=士会員」についてのセッションの様子