年頭のご挨拶 2025年の振り返りと2026年度の活動目標から 作業療法の未来を拓く
新年あけましておめでとうございます。
2026年の年頭にあたり、日本作業療法士協会を代表し、全国の会員の皆様に心よりご挨拶申し上げます。昨年も、医療・介護・福祉の多領域で多くの作業療法士が献身的に活動されました。日々の臨床、地域での支援、教育、研究、そして制度づくりにかかわる取り組みまで、あらゆる現場でご尽力いただいている会員の皆様に深く敬意を表します。
2025年7月に訃報が入りました。本会の初代会長であり、我が国における作業療法の道を築かれた鈴木明子先生がご逝去されました。深い悲しみとともに、心より哀悼の意を表します。私たちが継承すべきは、先生が一貫して示された「作業療法士」の職業倫理と、人間を尊重するリハビリテーション観でございます。医療や社会環境が変化を続けるなかにあっても、先生の理念は決して色褪せることなく、むしろこれからの作業療法の未来を考えるうえで、より一層大切にしていかなければならない道標であると強く感じております。本会は、先生の偉業を胸に刻み、その志を次の世代へとつなげて参ります。そして、これからも作業療法の発展と利用者一人ひとりの「その人らしい生活」の実現に向けて、誠実に歩んでいくことをお誓い申し上げます。安らかにご永眠されますようお祈りいたします。
改めて2025年を振り返ると、社会環境が大きく揺れ動いた一年であり、物価高騰、慢性的な人材不足、地域間格差の拡大等、医療・介護現場を取り巻く課題は一層顕在化しました。そのなかで、作業療法士が果たす役割の重要性がこれまで以上に注目された一年だったのではないでしょうか。特に「生活を支える専門職」としての視点が、地域包括ケアシステムの深化とともに社会的に再評価され、医療・介護・障害福祉、精神保健、児童・教育領域でその存在感は確実に広がっています。
本会としても中長期的な視点に立ち、2040年に向けた体制の強化を進めてきました。生涯学修制度の整備が進み、会員の学びを質的に保証する仕組みが段階的に整ったことは大きな前進です。また、第59回日本作業療法学会(高松)の盛況や研修事業の質向上、オンライン教育の拡充等、作業療法の専門性を支える基盤整備を中心に、協会全体が一体となって取り組んだ一年でもありました。
さらに2025年末に成立した物価高騰に対応した国の補正予算では、医療・介護職の処遇改善が改めて大きな柱として位置付けられました。特にリハビリテーション専門職の賃金水準に対する国の問題意識が明確に示され、賃金引き上げに向けた政策が強化されたことは、長年の課題が前進した重要な出来事でした。本会としても、私たちの専門性と責務に見合った処遇改善は不可欠であると、国に対し一貫して訴え続けてきたところです。今後も、賃金水準の底上げが一過性とならないよう継続した制度改善等を求めて参ります。
2026年4月には新しい年度を迎えます。これらの流れを確かな力として定着させ、作業療法の専門性と社会的価値をより明確に発信していく重要な一年になります。以下、来年度の活動目標を述べさせていただきます。
○生涯学修制度の本格運用と質保証の強化
生涯学修制度は2025年度より段階的な本格運用に入り、登録作業療法士制度が動き出しました。2026年度末までは従来の生涯教育制度と並行した移行期間となりますが、制度の定着と充実を図り、会員の学びを支える基盤整備を進めて参ります。制度は単なる研修の羅列ではなく、“作業療法士の専門性を未来へつなぐ職能基盤”となることが求められます。本会としては、研修体系の標準化、ICTを活用した学びの環境整備等を進め、全国どこにいても質の高い学びにアクセスできる体制を強化します。加えて、臨床での成果が見える学修体系を目指し、「学んだことが実践に活かせる」構造をさらに洗練させていきます。
○作業療法の成果を示すデータ発信の強化
国への政策提言の質を高めるためには、作業療法の成果を客観的に示すデータが不可欠です。協会として、エビデンス創出に向けた研究、アウトカム評価指標の整備、臨床実践データを収集する仕組みの検討をさらに推し進めます。一方、高齢者・精神障害・子ども支援、そして就労や地域生活支援等、各領域における作業療法の実践を社会にわかりやすく示すことで、政策的な理解と制度改善につなげていきます。
○地域で活躍する作業療法士の育成と支援
地域包括ケアの実質化が進むなか、そのニーズに即応できる作業療法士の育成は喫緊の課題です。本会は、都道府県作業療法士会と連携し、地域支援体制の整備、行政・健診事業、学校・企業との協働、地域特性に応じた人材育成プログラムの構築をさらに強化していきます。また、災害リハビリテーションの体制強化として一般社団法人日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)の活動支援も継続し、災害多発時代に求められる機動的な対応力の育成にも力を注ぎます。
○国民への広報と作業療法の社会的認知向上
作業療法の価値を社会に届ける広報活動は、今後ますます重要な戦略となります。新たな媒体としてメタバース(仮想空間)を用いた「OT Meta PLACE」を本格的にオープンし、デジタルメディアを活用した発信、国民向けキャンペーンのさらなる強化等、作業療法の存在意義を国民に伝える広報活動にも用いたいと考えています。特に若年層への発信には、このようなITシステムの活用が、将来の作業療法士確保にもつながる重要な取り組みになると考えております。
○協会組織のガバナンス強化と会員サービスの向上
会員にとって「頼れる協会」であり続けることです。そのためには、組織体制のさらなる強化とともに持続的な発展が欠かせません。今年度は、情報管理体制の強化、財政基盤の安定化、職員体制の整備、都道府県士会との連携強化等、協会運営を支える基盤づくりを一層進めます。
○渉外活動について
作業療法士の賃金の底上げを含めた処遇改善は、課題が残っております。法制度の執行を担う行政機関(厚生労働省、文部科学省、こども家庭庁等をはじめとする関連省庁)、法律や条例の制定・改正を担う立法府とその構成員(国会議員や地方議員)、そして各関係団体への要望という総合的な渉外活動の展開をさらに加速させます。
改めての確認となりますが、本会の政治活動については、3原則があります。
①特定の議員や政党を支持するものではない。
②会員個人の思想信条の自由を侵すものではない。
③本会の目的達成に必要と考えられる範囲と対象に対して行われるもの。
これらは遵守すべきことですので、協会・士会関係者でしっかりと理解したうえで活動しなくてはなりません。今後もさまざまな角度からの要望活動を継続して参ります。
○日本作業療法士協会設立60周年記念式典の開催について
今年、本会は設立60周年という大きな節目を迎えます。これまで、先輩方が築き上げてこられた歩みに深く敬意を表するとともに、未来の作業療法をさらに発展させる決意を新たにしております。9月4日(金)に「設立60周年記念式典」を開催予定です。本会の軌跡を振り返り、次の十年二十年を切り拓く場にしたいと考えております。
会員の皆様とともに、この歴史的節目を祝い、未来へ踏み出す力としたいと思います。ぜひご参加ください。
これらの取り組みの中心にあるのは、もちろん会員一人ひとりの実践です。作業療法士は、単に機能を改善する職種ではありません。生活を再構築し、その人らしさを取り戻し、暮らしを支える専門家です。皆様が日々向き合っておられるクライエントに、一人として同じ人はいません。個々のクライエントに寄り添い、創造力と専門性をもって支えるのが作業療法士の使命です。
2026年、社会はこれまで以上に「生活の専門家」を必要としています。人口構造の変化、働き方の多様化、障害者・高齢者の生活課題の複雑化、そして災害の多発――これらすべてに対して、作業療法士は確かな解決策を提供できる存在であるはずです。今、私たちが進む道は、未来の作業療法の価値を大きく左右する極めて重要な時です。
おわりに
すべての分野の会員作業療法士の質の担保を最優先とし、地域リハビリテーション、認知症リハビリテーション、司法領域、メンタルヘルスを含む就労関連、子ども関連支援等における作業療法の推進は、本会として推し進めているところです。私たちの神髄は臨床。現場で悩み、葛藤しながらも、より良い支援を追求しているその姿勢こそが、作業療法の発展を支えています。どうか今年も、自らの専門性に誇りをもち、仲間とともに歩んでください。本会は、皆様の挑戦を全力で支え、その専門性が正当に評価される社会の実現に向けて、引き続き力強く取り組んで参ります。
私たち作業療法士だからわかることがあります。作業療法士だからできることがあります。対象者とともに輝くことです。そのための「都道府県作業療法士会と日本作業療法士協会」です。私たちの手で未来を切り拓いていきましょう。何卒よろしくお願いいたします。
2026年が皆様にとって飛躍の一年となりますことを、心より祈念いたします。
(会長 山本伸一)

会長 山本 伸一
