機関誌『日本作業療法士協会誌』

ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発② ▶精神科作業療法領域

前号では、本会が推進する「ICF(国際生活機能分類)に基づく疾患別作業療法標準化事業」の背景、推進体制、そして「①疾患別アセスメントセット・手引きの作成と介入内容の枠組みの作成」「②全国規模の実態調査から介入研究へ」「③アウトカムの検証・明示」「④関連学会との連携・ステートメント化」という4つの柱を概観しました。
 本稿では、その具体的な取り組みの一つとして、「精神科領域におけるICFに基づく作業療法アセスメントセット」の開発状況と、臨床実装に向けた検討のポイントを紹介します。なお、本デルファイ調査の研究内容は、現在、英文雑誌に投稿中です。

地域包括ケア推進と、精神科作業療法計画におけるICF活用の課題

近年、地域共生社会の実現に向けて、国としても「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が推進されています。こうした流れのなかで、地域生活を支える作業療法には、医療機関内の評価にとどまらず、生活機能、社会参加、環境要因までを含めた見立てと支援計画がより一層求められます。
 本会でも、ICFに基づく個別の精神科作業療法計画の立案について検討が進められてきました。本会発行の「作業療法ガイドライン2024年度版」では、対象者を包括的に評価するためにICFの活用が推奨されています。しかし、精神科作業療法計画を立案する際に、具体的にどのICF項目を優先して評価すべきかについては、明確な合意が十分に整っていない状況がありました。

WHOのICFコアセットと、臨床での「ずれ」

   精神障害に関連したICFの評価セットとして、WHO(世界保健機関)により統合失調症、双極性障害、うつ病に関するICFコアセットが整備されています。
 一方で、我々の予備的事前調査では、これら3つのICFコアセットに含まれるICFコードと、臨床現場において精神科作業療法計画の立案で実際に用いられているICFコードの間に相違があることが示唆されました。すなわち、精神科作業療法計画の立案には、疾患特異的なICFコードだけでなく、作業療法に特徴的なICFコードが存在する可能性があると考えられました。

「精神科領域におけるICFに基づく作業療法アセスメントセット」の開発

精神科作業療法計画に必要となるICFコードを明らかにし、その適切性を検証することで、精神科領域におけるICFに基づく作業療法アセスメントセットを開発することを目的として、デルファイ調査を実施しました。概要を図1に示します。

図1 デルファイ調査の概要

    この調査に協力した専門家は、公益社団法人日本精神神経学会、公益社団法人日本精神科病院協会、公益社団法人全国自治体病院協議会から推薦を受けた医師5名と、本会から推薦を受けた作業療法士10名の計15名でした。このうち医師1名が参加を辞退し、14名が調査に参加しました。
 ワーキンググループは、前組織の学術委員会ICF小委員会を中心に結成しました。
 方法は、ほかの領域と同様にデルファイ法によるアンケート調査です。デルファイ法は、複数ラウンドの質問票とフィードバックを通じて合意形成を進める方法であり、各ラウンドで集約結果を共有しながら再評価する点に特徴があります。
 第1ラウンドのアンケート表は、ICFコアセット、ICFチェックリスト、各種診療ガイドライン、ならびに事前調査を参考に作成しました。各ラウンド終了後に結果をワーキンググループおよびパネリストと共有し、ICF項目の追加・修正を行うプロセスを3回繰り返しました。
 結果として、第1ラウンドの項目数は58でした。第1ラウンド終了後、結果共有を行い、12項目を削除、4項目を追加しました。
 第2ラウンドは50項目となり、終了後に結果共有を行い、4項目を削除、2項目を追加しました。
 第3ラウンドは48項目となり、終了後に結果共有を行い、6項目を削除し、最終的に42項目が精神科作業療法ICF評価セットとして抽出されました。
 抽出された42項目の内訳は、心身機能17項目、活動と参加21項目、環境因子4項目でした(図2)。これにより、症状や機能障害に偏らず、生活機能全体を横断して捉える評価枠組みとして、臨床推論と計画立案を支えるセットを提示できるかたちとなりました。

図2 精神科作業療法アセスメントセット(42項目)

臨床での使いどころ

作業療法アセスメントセットは、チェックリストとして機械的に埋めることを目的とするものではなく、「見立ての抜け漏れを減らし、臨床推論の共通土台をつくる」ことを意図しています。想定される活用場面は、たとえば以下のとおりです。
 ●初期評価の整理
  入院・外来・デイケア・訪問等、場面が異なっても、共通の枠組みで生活機能の全体像を把握しやすくなります。
 ●目標設定と介入計画の明確化
  活動と参加の課題を明示し、必要なスキル獲得、環境調整、支援資源の調整へとつなげやすくなります。
 ●多職種・多機関連携
  主観的表現になりやすい領域でも、ICFカテゴリーを手掛かりに情報共有の焦点を揃えやすくなります。
 ●成果の説明
  支援の成果を、症状だけでなく生活機能の変化として提示しやすくなり、本人・家族や他職種への説明にも活用できます。
 ●データ蓄積の基盤
  項目が標準化されることで、施設横断での実態把握やアウトカム検証に向けたデータ統合が現実的になります。

今後に向けて

    現在、アセスメントセット(精神科)を臨床でより使いやすくするために、評価手順、記載例、そして各ICFコードの解釈を整理した「評価セット活用の手引き」を作成中です。ICFカテゴリーは有用である一方、用語が抽象的に感じられたり、どの情報を根拠に判断するかが施設によって異なったりすることがあります。そこで、現場での再現性と運用のしやすさを高める観点から、以下のような論点を中心に検討を進めています。
 ・そのコードを精神科作業療法でどう解釈するか
 ・似たコードの使い分けをどうするか(混同しやすい概念や用語の整理)
 ・どの情報源を手掛かりに判断するか 等
 完成の折には、ぜひ日々の評価や支援計画の立案、チーム内の共通理解の形成、さらには地域連携の情報共有にもご活用ください。標準化事業の趣旨である「全国の作業療法実践の可視化」と「疾患別エビデンス創出」に向けて、現場で使えるかたちに整えたうえで公開していく予定です。公開まで今しばらくお待ちいただければ幸いです。

【参考文献】
1)日本作業療法士協会:作業療法ガイドライン2024年度版.https://www.jaot.or.jp/files/page/gakujutsu/guideline/OT%20guideline_2024.pdf (閲覧2025/12/18) 
2)日本作業療法士協会:作業療法マニュアル79 精神科作業療法計画の立て方.中央法規出版,2023.

(学術部 疾患別作業療法標準化事業班)