事務局だより~高校生のお客様をお迎えして
高校生が本会を取材してくれました
本会事務局にはいろいろなお客様がいらっしゃいますが、昨年10月29日、高校生の伊澤深月さん(ぐんま国際アカデミー高等部1年)が訪ねてくれました。実は本会事務局への訪問は今回で二度目。一度目は一昨年8月、伊澤さんはまだ中学3年生(同校中等部3年)でした。学校の課題(後述)を通じて作業療法に関心をもち、その社会的ニーズについて調べるためのインタビュー取材で訪れました。取材には作業療法士の事務員が対応し、作業療法(士)を取り巻く現状について概要をお話しました。その後も伊澤さんとは追加取材やアンケート調査、イベント等で交流が続いていきました。
そして今回、伊澤さんは、文部科学省および民間企業が主催する留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」第10期派遣で訪れたアメリカでの研究成果を報告するため、事務局を再訪してくれました。学校の課題学習や本会事務員との交流を通じて、さらに作業療法への関心を深めた伊澤さんは、地域社会に作業療法が広く普及しているアメリカに興味を惹かれ留学先に決めたそうです。

伊澤深月さん
伊澤さんと作業療法の出会い
そもそも伊澤さんが作業療法に興味をもったきっかけは、先述したように中学3年生の時でした。学校の課外活動で、「社会課題に対して、自分のやりたいことや興味のあることで貢献できるニーズを調査し、課題解決のアウトプットをする」というプロジェクト学習に取り組みました。書道に親しんできた伊澤さんと福祉に関心のあるクラスメイトがペアになって「書道×福祉」をテーマに学習を開始しました。
「書道と福祉に何かかかわりがないかを調べていたところ、書道が作業療法に使われていることを知りました。今までは『自分の上達のため』『自分の心を落ち着けるため』にやっていた書道ですが、それは認知症等の予防にも活用されていることを知って、作業療法に興味が湧いたのです。」
伊澤さんたちは作業療法についてより詳しく知るために本会事務局への取材を行い、課題学習のアウトプットとして、昨年1月には地域でイベントを開催しました。作業療法に対する地域住民のニーズ向上を目標に、未就学児~小学生および保護者を対象に、「オリジナルスノードームづくり」を通じて作業することの楽しさを感じてもらいながら、作業療法(士)について知ってもらうイベントとなりました(写真1)。このイベントには本会事務員もお邪魔しました。

写真1 イベントでのスノードームづくりの作業の様子
「取材のなかで、日本ではまだまだ作業療法の認知度が低いというお話をうかがいましたが、さらに調べてみると日本に比べてアメリカでは作業療法の認知度が高いこともわかりました。そこで、作業療法とも関連する『人生の豊かさ』というテーマを軸に、日本とアメリカで作業療法士の考え方に違いがあるのかを知りたくなったんです」
こうして伊澤さんは「トビタテ!留学JAPAN」に応募し、アメリカ・カリフォルニア州へ留学することになりました。
作業療法と「人生の豊かさ」のリンク
伊澤さんが留学で取り組んだ研究テーマは「作業療法を通じた豊かな生活に関する考察―アメリカ・カリフォルニア州における留学を通して―」。この研究は、作業療法を通じて人々の生活の「豊かさ」につながる要因を探ることを目的としたものとのこと。
伊澤さんは留学に先立って、まずは日本の現状を理解すべく、日本国内の作業療法士33名を対象としたアンケート調査を行い、加えて、主に高齢者を対象とした施設を見学(写真2)。

写真2 国内施設の見学として公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院(群馬県)を訪問
その時の印象を次のように述べています。
「日常生活のなかで自立を支えるための短期的かつ具体的な目標を設定し、生活の質向上を目指していることが印象的でした。作業療法士は利用者の現状を最大限尊重しながら、悪化を防ぎ、生活の安定を支える実践的で着実なサポートを行っておられ、現場全体は落ち着きと温かみのある雰囲気でした。また、地域との連携や在宅支援等、多職種との協働を通して『生活の場に近いリハビリ』を模索する取り組みもみられ、作業療法士の方々の工夫や努力も印象に残っています。」
アメリカでは、作業療法を行う発達障害児支援施設でのボランティア活動に参加し、小児作業療法施設や北米最大級の統合的がん治療センター、地域包括支援センター、発達支援・障害者サポート機関、専門クリニック等、たくさんの施設を訪問したそう(写真3)。

写真3 留学時に見学したカリフォルニア州の小児作業療法施設
これらの施設で働く作業療法士へのインタビューやアンケートを行い、日本とアメリカの作業療法士の働き方や生活観を比較して、作業療法を通じて得られる「豊かさ」とは何かを考察しました。
「調査を通じて、日本の作業療法士は豊かさを時間、お金、人間関係等、現実的・安定志向の要素として捉える傾向があり、アメリカではキャリアの成長、挑戦、信仰等、将来を見据えた精神的・文化的要素を重視する傾向があることがわかりました。アメリカでは作業療法の主な対象が子どもであり、リハビリテーションは未来志向的であるのに対して、日本では高齢者が中心で、現状維持や生活の安定を目的とする支援が多いようです。そのため、支援者である作業療法士の意識にも未来志向と安定志向というかたちで、日米で違いが生じているのではないかと思いました。」
伊澤さんは今回の研究をこのように結論付けました。まだ調査対象数が少ないのが今後の課題とのことですが、日米における作業療法の普及度や位置付けの違いから作業療法士自身の意識にスポットを当てる着眼点や、作業療法の核心を理解し、本会の基本理念とも通じる「人生の豊かさ」をキーワードに据えて研究をされたことに事務局一同、たいへん感銘を受けました。
若い世代の関心と共感はパワフル
将来がとても楽しみな伊澤さんですが、今後の進路はどのように考えているのでしょうか。
「私自身が作業療法士になりたいかどうかはまだわかりません。今回はアメリカに留学しましたが、もっといろいろな国も見てみたいです。留学先でとてもお世話になった方は、35歳になってから作業療法士を目指したそうなんです。その方から『自分の可能性を狭めないで、いくつになっても自分のやりたいことは何でも挑戦したほうがいいよ』と言っていただきました。まずはこれからいろいろなことに挑戦して、自分のやりたいことを見つけていきたいなと思っています。」
将来、伊澤さんが作業療法士になってくれたら嬉しい限りですが、そうならなくても、こうして作業療法に関心と共感を寄せてくれる若い世代の方がいることはたいへん心強いです。本会は第四次作業療法5ヵ年戦略および例年の重点活動項目で、小・中学生をはじめとした次世代や保護者、教職員への広報の重要性を挙げています。ぜひ会員の皆様も機会があれば、若い世代との交流をお願いできれば幸いです。
(事務局)
