機関誌『日本作業療法士協会誌』

士会における認知症への取り組みを推進する 担当者同士の情報交換会 開催報告

2026年1月31日、都道府県作業療法士会において、認知症への取り組みを推進している担当者同士の情報交換会を2部構成で開催しました。第Ⅰ部は一般会員の方への講義と都道府県士会の取り組み(アンケート結果)報告、第Ⅱ部は各都道府県士会認知症推進担当者でのグループセッションを行い、第Ⅰ部132名、第Ⅱ部 106名が参加の情報交換会となりました。

第Ⅰ部前半 認知症の人の声を聴く

第Ⅰ部では、齊藤千晶氏(認知症介護研究・研修大府センター/愛知県認知症希望大使とともに委員/愛知県作業療法士会理事)より、「認知症の人の言葉を聴く?意思決定支援ガイドラインに沿った聞き方の工夫を考えよう」のご講演をいただきました。講演では、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」に基づき、認知症の人の意思をどのように支えていくのか、その基本的な考え方と具体的な支援の視点についてわかりやすくお話しいただきました。

ガイドラインでは、認知症の人を単に「支える対象」として捉えるのではなく、尊厳のある一人の人として、その人らしさやもっている能力を大切にしながら、ご本人の意思に基づいた生活を送るように支援することの重要性が示されていること、また、意思決定支援が求められる場面は、食事や洋服の選択といった日常の選択から、暮らし方やお金の管理、医療・障害福祉・介護サービス等の社会生活、人生の節目にかかわる場面まで、非常に幅広いことが紹介されました。さらに、意思決定支援においては、人的・物的の環境設定の視点や意思形成の視点等についての重要性をご教示いただきました。

意思決定支援において大切なことは、「何を選んだのか」という結果ではなく、「どのように決めてきたか」という過程を尊重することであり、日々のコミュニケーションの積み重ねが、本人の意思を支える土台になることから、支援者の視点で判断するのではなく、「本人とともに考える」意思決定支援を行っていく大切さを改めて学ぶ機会となりました。

第Ⅰ部後半 士会・個人の活動の取り組み紹介

第Ⅰ部後半は、「本人の声を聴く」をテーマに、士会の取り組みだけでなく個人で活動されている作業療法士の方にスポットをあて、伊藤篤史氏、服部優香理氏、佐藤昌子氏の3名にご登壇いただき、活動の紹介を行っていただきました。

初めに伊藤氏からは、「愛知県認知症本人発信支援事業」の取り組みについてご紹介いただきました。愛知県作業療法士会が希望大使の伴走支援を行うこととなった経緯についてお話しいただき、現在は2期目であるとのことです。全国での講演活動や認知症の人の声を載せた冊子を作成されています。また、「愛知県認知症本人発信支援者支援事業」についてのご紹介もあり、支援者側の支援についての必要性についてもお話しくださいました。

次に服部氏からは、個人での認知症のご本人と行っている活動とともに、岐阜県の老人保健施設で勤務する作業療法士として、認知症の人への日常生活への実践例についてご紹介いただきました。「地元の案内をしたいという思いを大切にし、散策を実践した」事例では、ご本人の声を聴き、本人の視点に立ってかかわることの大切さが伝わってきました。また、ピアの方との話し合いの場面から、本人目線の工夫に気づかされ、支援者側の視点を見直すきっかけを得た経験を紹介いただき、改めて「本人の声を聴く」ことの意義が共有されました。

最後に、佐藤氏より秋田オレンジ大使(地域版認知症本人希望大使)での取り組みについてご報告いただきました。秋田オレンジ大使が語る認知症への思いや、認知症カフェでの活動の様子を通して、当事者の声を地域に届ける実践例が紹介されました。また、自身の役割として、活動を多くの方へ伝えていくことや、実行可能な施策・仕組みづくり、病院職員としてかかわる意義、についてもお話しいただきました。

登壇者の皆さんはいずれも、日々の業務の調整や希望大使でのマネージャーの役割を担いながら大変だったとのことを振り返っておられましたが、一方で認知症の人の思いに触れ、ご本人同士が出会う場に立ち会えること、活動のなかでみられるいきいきとした姿に出会えたことに感銘を受け、やりがいにつながり、行ってきて良かったと体験者ならではの言葉が印象的でした。地域での活躍が期待される作業療法士として、認知症の人やご家族を支援する実践を学ぶ貴重な時間となり、大きな活力を得る機会となりました。

都道府県士会アンケート結果報告

毎年、認知症対策班で実施しているアンケート(都道府県士会における認知症への取り組みに関するアンケート)を今年度も実施し、45都道府県士会から回答を得ました。士会における認知症関連の活動内容としては、「会員向け人材育成研修会・勉強会の実施」が最も多く、次いで「家族会等、支援団体のサポート、協働」でした。昨年度との比較では、「カフェ・集い等、地域資源への参加」が19件から26件へと最も増加していました(図1)。一方、本情報交換会に関する情報共有および報告体制、方法については、「理事・運営会議で報告」が35件と最も多かったです。しかしながら、「事業計画に追加」「研修会・勉強会で報告」は少数にとどまり、また、「報告できていない」とする回答も一部に認められました(図2)

 

図1 士会における認知度の活動内容

図2 士会内における情報交換会の報告体制

以上より、認知症に関する活動は徐々に広がりをみせているものの、その内容や体制には都道府県間で差が存在することが明らかとなりました。共通する課題としては、人材不足および人材育成の必要性が挙げられました。また、本会からの情報発信が士会員まで十分に届いていないことや本人の声に焦点をあてた活動が依然として少ない状況も示されました。

これらの結果を踏まえ、①士会における情報共有や人材育成等の体制整備を協働で進めていくこと、②各士会の実情に合わせて取り入れられるよう多様な実践を発信すること、③認知症支援の動向をふまえた作業療法のあり方を協議する場を創ることの重要性が示唆されました。今後は、「協会―士会―会員」の連携、協力およびバックアップ体制をより一層強化していく必要があると考えました。

第Ⅱ部 情報共有とアクションプラン

第Ⅱ部は、第Ⅰ部の情報提供を受け、各都道府県士会から推薦された認知症に関する事業を担われている作業療法士(士会推薦者)同士でグループに分かれて情報交換を行いました。

今年度のグループワークは、「全国の県士会の現状や課題を知ること」、そして「課題を共有することで生まれる改善案やヒントを得ること」を目的としました。情報共有だけに留まらず、本研修会の終了後も継続的かつ各都道府県士会の現状や課題、改善案、今後のアクションプランについてディスカッションが行われ、各士会での取り組みの情報共有と、人材の育成や確保といった課題等について意見交換されました。

後半には、本日の内容をヒントに活動につなげていきたいといったアクションプランについても意見交換がなされ、他地域の取り組みを知り、また自身の取り組みをアウトプットすることで、今後の取り組みがより充実したものに発展することを期待しています。

まとめ(終了後アンケートより)

第Ⅰ部、第Ⅱ部参加者を対象に終了後アンケートを行い、106名(回答率80.0%)の方から回答をいただきました。回答者の業務領域は、医療46.2%、介護31.1%、地域支援11.3%、養成教育・研究9.4%、障害福祉0.9%、行政0.9%でした(図3)

図3 業務の領域

第Ⅰ部の講義については、「今後の活動に活用できる」が98.1%の回答であり、大変有意義な内容であったと考えております(図4)。具体的には、ガイドラインの活用への意識や、普段の取り組みに反映させたいといったご意見が寄せられていました。また、士会・個人の取り組み活動の紹介については、「今後の取り組みに活用できる」が91.5%の回答でした(図5)。具体的には「本人の何気ない一言も大切な感情であることを学ぶことができた」といったかかわり方の視点を学ばれた内容や、取り組みの紹介から今後の活動に取り組んでいきたいといった前向きなご意見が寄せられていました。

図4 第Ⅰ部 講義について

図5 第Ⅰ部 士会・個人の取り組み紹介

第Ⅱ部の情報共有とアクションプランについては、第Ⅰ部のみの参加者の回答もあるなか、「今後の活動に活用できる」が79.2%の回答でした。具体的には、「士会活動に活かせるヒントをいただくことができた」「自分のモチベーションに寄与しました」といったご意見が寄せられました(図6)

図6 第Ⅱ部 情報共有とアクションプランについて

最後に、この情報交換会の開催につきましては、皆様から寄せられた内容を参考に今後も継続して企画していきたいと考えております。今後ともご協力のほどよろしくお願いいたします。