機関誌『日本作業療法士協会誌』

「スポーツをしたい」に応える。 ~中級パラスポーツ指導員養成と作業療法士の新たな役割~

スポーツは世界共通の文化であり、それを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、スポーツ基本法において「すべての人々の権利」と明記されています。しかし、現実は一般成人の週1回以上のスポーツ実施率が約5割であるのに対し、障害のある方は約3割にとどまっており、実施率に大きな格差が存在します。文部科学大臣の定める第3期スポーツ基本計画が掲げる目標にも届かないこの現状は、個人の努力不足ではなく、場所や情報の欠如、そして心理的ハードルといった「社会的な障壁」が原因です。このアクセスの格差を解消し、参画の権利を保障することが、今、私たちに問われている大きな課題です。

作業療法士は、まさにこの障壁を取り除く専門職です。対象者の特性や生活背景を踏まえ、方法や用具、ルールを調整し、不安を軽減する段階付けを行う。こうした環境や人的支援を整える実践は、本来すべての人に保障されるべき「参加する権利」の獲得を支えることそのものではないでしょうか。これまでスポーツ分野の作業療法士は、パラアスリートの支援が主軸でした。先駆者たちが道を切り拓いてきたことで、スポーツ界での作業療法士の認知度も、職能内での意識も確実に高まってきました。現在ではそこからさらに、身近な「やりたいのにできない」という声に応える多様なかかわり方が生まれており、それもまた作業療法士の大きな魅力です。トップ層の支援のみならず、参加の入口を整え継続を支える視点こそが、作業療法の本質と重なるのです。

本会では、この支援の裾野を広げるべく、中級パラスポーツ指導員の養成(後述)に3年間のトライアルとして取り組んできました。リハビリテーション室での機能訓練や地域の行事等、皆様の日常業務の延長線上には、一人ひとりに合った参加のかたちをみつけていく新たなフィールドが広がっています。本稿が、皆様それぞれの立場から「スポーツと作業療法」の接点を見出す契機となることを願っています。

中級パラスポーツ指導員養成講習会

中級パラスポーツ指導員養成講習会は、スポーツ振興班による企画のもと、教育部の協力で、2023~2025年度の重点課題研修として開催してきました。通常は初級パラスポーツ指導員の資格取得後、57時間の講習(9~10日の研修)を受講する必要がある資格ですが、本会作成の作業療法士専用のカリキュラム(29.5時間の講習:4日間)が公益財団法人日本パラスポーツ協会に公認され、開催の実現に至りました。

4日間の座学(オンライン)・実技(対面)に出席し、カリキュラムをすべて受講し、最終レポートを提出することで修了となります。実技会場は、2023年は東京、2024年は東京と大阪、2025年は福岡が会場となりました。

この3年間はトライアル事業の位置付けではありましたが、修了生は通常の研修会と同様、修了証が授与され日本パラスポーツ協会への申請・登録後、中級パラスポーツ指導員として活動ができます。3年間で152名(2023年37名、2024年74名、2025年41名)の中級指導員が誕生しました。都道府県別(表参照)では、会場となった東京・大阪・福岡に修了者が多くいます。なお、現時点では全国で10の都道府県作業療法士会において、スポーツ支援を担う部署(委員会・班等)が設置されており、本講習会の修了生が各地域で活動を展開する基盤も徐々に整いつつあります。

トライアル事業としての講習会は今年度で終了し、2026年度の開催はお休みとなりますが、各都道府県の障がい者スポーツ協会が講習会を開催する可能性がありますので、お住まいの都道府県の障がい者スポーツ協会ホームページを随時ご注目ください。2027年度から2031年度までは隔年で中級講習会を開催し、講習会を開催しない年にはフォローアップ講習として中級指導員を取得された会員や全会員を対象に単日で実践報告会やワークショップ(対面またはオンライン)を開催する予定です。引き続き日本パラスポーツ協会とも連携を図り、講習会の継続開催を目指していきますので、皆様には引き続き関心をお寄せいただきたく思います。

表 都道府県別中級資格取得者数

受講生からの声

中級パラスポーツ指導員養成講習会を受講された方からの感想をご紹介します。本講習会を通じて初めてパラスポーツにかかわるようになった方、パラスポーツにかかわりつつ本講習会を通じて、自身のかかわり方をブラッシュアップされた方、学校養成施設での教育活動に活用されている方、それぞれの観点で語ってくれています。

初めてパラスポーツにかかわる

2024年度に本講習会を受講し、2025年4月から中級パラスポーツ指導員として活動を開始しました。私自身はこれまでパラスポーツにかかわった経験がなく、高齢者の回復期・維持期の作業療法にかかわってきました。これまでの臨床ではクライエントがスポーツに参加するなんて考えたこともありませんでした。しかし、本誌にて中級パラスポーツ指導員養成講習会の募集をみて、「見たことない!」「知りたい!」と思って受講しました。資格取得後はパラスポーツ協会のボランティア要請に応じて大会運営に参加したり、プライベートでパラスポーツ観戦に行ったりしています。

パラスポーツはテクニカルな競技もあれば、重度障害の方もエントリーできる競技もあることを知りました。それぞれの心身には違いがありますが、その違いを超えてベストを目指すクライエントの姿には感動しています。障害に対する理解が深いほど「パラスポーツのすごさ」も理解しやすいので、作業療法士がパラスポーツを伝えていく、つなげていく意義は大きいと感じています。ぜひ作業療法士として作業を支えるうえで「スポーツをやりたい」というニーズに応えられるように、皆さんも中級パラスポーツ指導員の資格を取ってみませんか? 作業療法士としての視野が広がりますよ!

パラスポーツへのかかわりをブラッシュアップした(写真1)

写真1 全国障害者スポーツ大会2025滋賀大会の様子

大学生の時に、初級障害者スポーツ指導員(当時)を取得した後、県障害者スポーツ大会(以下、県大会)の補助や全国障害者スポーツ大会(以下、全スポ)の帯同等をしています。協会主催の本講習会も受講し、今までの活動があくまで「作業療法士視点でのかかわり」であったことに気づき、「障害者スポーツ指導者」というもう一つの視点をもつことができました。

臨床のなかではプログラムの一環として、利用者を県大会の陸上競技会への出場に誘い、大会に向けた練習も行っています。そして、施設利用終了後も県大会に出場を続けた元利用者が、全スポの県代表に選出。見事メダルを獲得することができました。競技だけでなく、初めての環境での行動やほかの選手との交流等は、普段の生活にもつながる良い経験となったようです。

学校養成施設での教育活動にも活かせる(写真2)

写真2 スポーツ支援を通じた教育実践

福岡医健・スポーツ専門学校では、作業療法士養成課程の一環として、毎週金曜日の放課後に校舎を開放し、学生とともに障害のある方のスポーツ参加を支援しています。

協会主催の中級パラスポーツ指導員養成講習会への参加を契機に、専門的知識と実践技術、全国的なつながりが広がりました。現在は、一般社団法人日本ボッチャ協会の未来創生プロジェクト(独立行政法人日本スポーツ振興センターの委託事業「課題解決型アスリート育成パスウェイ構築支援プログラム」として実施)の福岡拠点として、地域のパラアスリート育成と指導者養成を推進しています。作業療法士を目指す学生が在学中からこうした実践にかかわることは、将来出会う対象者の生活を多面的に捉える視点を育むうえで大きな意義をもちます。

今後も福岡医健・スポーツ専門学校では、教育と実践を融合させた取り組みを通じて、スポーツを活用した作業療法の可能性を広げ、共生社会の実現に貢献できる人材の育成に努めて参ります。