機関誌『日本作業療法士協会誌』

ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第3回 認知症の作業療法領域

はじめに

本連載では、本会が2025年度重点活動項目として掲げる「疾患別作業療法の評価及びプログラムのICFによる可視化と実践の推進」に基づき、ICF(国際生活機能分類)を用いた標準化事業の概要を紹介しています 。第1回では作業療法の標準化が求められる背景と事業全体の4つの柱について、第2回では精神科領域におけるICFに基づく作業療法アセスメントセットの開発状況と臨床実装に向けた課題について報告しました。

第3回となる今回は、アルツハイマー型認知症(AD)の人の在宅生活継続を支援するために開発された「認知症領域における作業療法ICFアセスメントセット」の概要と、その開発プロセスについて述べます。

認知症の人への作業療法について

認知症のリハビリテーションは、単なる「脳トレ」といった機能訓練にとどまりません。2015年に策定された新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)では、生活場面を念頭に本人が有する能力を最大限に活かし、ADL・IADLの自立を継続させるものと定義されており、これは認知症基本法の理念とも合致します。

高齢化の進行に伴い、軽度認知障害(MCI)や独居の認知症高齢者の増加が予測されるなか、本会では、2016年度および2022~2024年度にかけて「老人保健健康増進等事業(老健事業)」を実施し、認知症の人の生活行為に対する支援の知見を蓄積してきました。具体的には、MMSE得点に応じたリハビリテーションモデルの提案や、診断後の訪問支援によるIADL維持・介護負担軽減への寄与、在宅生活を送るADの人への生活行為の継続支援に向けた実践プロトコルの作成と効果検証を行いました。

評価セット開発の背景と目的

上述の老健事業の成果を踏まえ、軽度から中等度のADの人における在宅生活継続に向けた、作業療法評価に必要最小限のICFコードを抽出しました。さらに、その適切性を専門家間で検証し、臨床現場で標準的に活用可能な「認知症領域における作業療法ICFアセスメントセット」を開発することを目的としました。本アセスメントセットにより、作業療法士間における評価のばらつきを抑制し、生活機能全体を網羅的に捉える視点を共有することを目指しています。

実施方法の概略

開発には精神科班と同様に、客観的な合意形成を図るデルファイ法(RAND Delphi法)を用いました。パネリストは、公益社団法人日本老年精神医学会推薦の医師5名と、本会推薦の実践経験豊富な作業療法士10名の計15名です。先行研究(実践報告35事例)から抽出した61項目を初期項目とし、全3回の調査を実施。各ラウンドで「適切性」を9段階で評価し、自由記述も含めた意見に基づき項目の修正・削除・追加の検討を繰り返しました。

結果の概要

以下、計3回のラウンドを経て最終的に51項目が選定されました(図参照)。

図 認知症領域における作業療法ICFアセスメントセットの項目

 ●第1ラウンド:意見集約により5項目削除、5項目追加(計61項目)。

 ●第2ラウンド:8項目削除、3項目追加(計56項目)。

 ●第3ラウンド:最終的に5項目を削除(計51項目)。

内訳は心身機能11項目、活動と参加30項目、環境因子10項目であり、生活機能全体を横断的に把握できる構成となりました。これにより、たとえば「日付の見当識低下(心身機能)」が「服薬管理(活動と参加)」に与える影響や、「カレンダーと電波時計の導入(環境因子)」による代償手段の活用等、ICFの枠組みに基づく包括的な臨床推論が可能となります。

なお、このアセスメントセットは専門家が合意した「最大公約数的」な指標であり、評価の抜けや漏れを防ぐための標準的な視点です。当然、各施設やセラピストの視点、対象者個人の要因等を踏まえた個別的な視点を反映させてこそ、より質の高い作業療法が提供可能になると考えています。

今後について

本アセスメントセットは、認知症における作業療法の質を担保し、その専門性を多職種や社会へ可視化するための重要なツールとなります。今後の展望として以下の3点を進めていきます。

 ●論文化と公表:本調査結果を学術論文としてまとめ、国内外へ発信する。

 ●手引き(マニュアル)の作成:臨床現場の作業療法士が迷わずに各項目を評価・解釈できるよう、具体的な記載例や手順を含めた活用マニュアルを整備する 。

 ●利用の推進とデータ収集:本セットを臨床現場で広く活用できるよう普及活動を行い、蓄積されたデータを分析することで、作業療法のアウトカムを明示していく。

また、今回はADのある人を対象としましたが、今後はレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症等、ほかの原因疾患における検討も進めていく必要があるでしょう。本事業が、認知症の人とその家族が地域で安心して暮らし続けるための、確かな支援基盤となることを期待しています。

【参考文献】

1) 日本作業療法士協会:作業療法ガイドライン2024年度版 

2) 厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) 

3) 日本作業療法士協会:令和4?6年度 老人保健健康増進等事業報告書