認知症の方への作業療法

認知症の方の「困りごと」解決のための3つのステップ(1/4)

認知症の方とご家族の支援をしている作業療法士のインタビュー、2人目は山口智晴さんです。
山口さんは認知症の方の「困りごと」を解決するためには3つのステップがある、と言います。

群馬医療福祉大学 山口智晴 さん


私は、作業療法士として前橋市の認知症初期集中支援チーム(以下、初期支援チーム)に在籍し、チームリーダーを務めています。初期支援チームは、ご自宅で生活を続ける認知症の方とご家族を支援することを目的として、医師、保健師、看護師、作業療法士、介護福祉士などの専門家が参加しています。今回は、作業療法士としての視点でお話をさせていただきます。


最大公約数的な情報では限界がある

認知症の人を介護されているご家族のみなさんは懸命に介護をされていると感じます。また、とてもよく勉強されていて、うまく情報活用もされています。そのような状況の中で、私が初期支援チームの一員として活動する際に心がけているのは、認知症のご本人やご家族が抱えている、個別の「困りごと」が少しでも軽くなるようなサポートです。
書籍やインターネットのコンテンツを通して提供されている情報は、多くの方にとって参考になることを目指したある意味で“最大公約数的な情報”です。もちろん、“最大公約数的な情報”も重要ですが、それだけでは個別の「困りごと」を解消していくことが難しいと感じます。その理由は、「困りごと」の背景には、さまざまな要因がからんでいるからです。認知症の有無に関係になく、人の性格や得意なこと、役割、生活習慣はさまざまです。それに加えて、ご家族の状況や、ご自宅の環境もさまざまです。そのため、まずは、認知症のご本人やそのご家族の「困りごと」が何なのかを把握することが大切だと考えています。


スタートは、何に困っているのか、話を聞かせていただくところから

たとえば、初期支援チームの一員としてAさんの支援に関わる際には、Aさんが認知症になることで、どのような困難を抱えているのか? ご本人とご家族が何に困っているのか? それを理解するため、まず、話を聞かせていただくことから始めています。
Aさんとご家族が、どのような「困りごと」を抱えているのかが見えてきたら、次に、「困りごと」の背景にある因子を分析します。「因子」というのは、「影響を与えている要素」という意味です。分析をすることで具体的な改善方法が明らかになったら、それをAさんとそのご家族に提案し、一緒に「困りごと」が軽くなる道筋を検討していきます。

 Step 1 「困りごと」を明らかにする
 Step 2 「困りごと」の背景にどのような因子があるかを分析する
 Step 3 改善方法を提案して、一緒に検討する


認知症の人との関わり方の“専門家”とは?

このようなコンテンツの内容は、どうしても“最大公約数的なもの”になります。そこで、個別の事例における支援プロセスもお伝えすることで、「困りごと」を解決する際のヒントになるのではないかと考えました。
よく、“認知症の人とのかかわり方”について、どうするべきかをご質問いただきますが、認知症になったら特別な関わり方が必要ということはありません。一番大切なことは、認知症のご本人の意思です。そのため、私は認知症の人をサポートさせていただくときには、ご本人とご家族から、いろいろなことを教えていただいています。特に、その方との関わり方については、長い年月を共に過ごしてこられたご家族のみなさんの方が“専門家”です。
ただし、認知症になることで目に見えにくい認知機能の変化が生じるため、今までどおりのコミュニケーションでは、意思のすれ違いが生じることもあります。コミュニケーションは相互のキャッチボールですが、相手の言動やその意図が分からないと、すれ違いが生じやすくなるからです。このコンテンツが、ご家族の認知症理解の一助となり、認知症のご本人へのかかわり方の “専門家”として、力を発揮されるためのヒントになれば幸いです。


次回は8月27日に公開します
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