OTのスゴ技(作業療法士)

発達障害の子どもたちの「遊びの場」をつくる

高齢者

認知症

OTのスゴ技

岡本宏二さん(ふくしまをリハビリで元気にする会)
 日ごろ何らかの障害があり遊びに参加しづらい子どもたちに、作業療法士がボランティアで、ご両親やご兄弟や先生方を巻き込んでみんなで遊ぶ「遊びの会」を行っている。
「遊びの場」に作業療法士が関わることに、どのような工夫があるのか話を聞いた。

発達障害の子どもたちの「遊びの場」をつくる

 「子どもの遊びには質感が大切なのです。」と話すのは、岡本宏二さん。吹いてくる風、温かい日差しや冷たい雨を感じること、急な下り坂、登れそうもない崖を上がり何度も失敗すること、勇気を出して水たまりを飛び越えること、息が切れるまで走り回ること、泥団子をうまく作ること、砂山に穴をあけること…。安全且つ失敗を繰り返す遊びが重要であり、自然のなかにある全ての環境が重要なのだという。それが「生きる力」を育むことにつがるのである。

 テレビゲームばかりでは、遊びが偏ってしまい身体への刺激が少なく、子どもの運動能力や認知機能等の成長のための「遊び」が不足してしまう。人間は、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚などのいわゆる五感に加え、自分の体の動きをいつも感じている感覚やバランスをとるために働く感覚を通じて、自分が外界に働きかけたり、外部の環境から情報を受け取ったりさまざまなやり取りをしている。その時に生まれる、安心感、不安感、驚き、興奮、困惑、恐怖心、勇気、後悔、等々の感情の揺れ動きが重要なのだという。

 特に、発達障害の子どもたちは、その経験が不足のうえに、この一連の処理が苦手な場合が多い。そのため、感情の表現が上手にできなかったり、的外れなものになってしまったりする。そうするとお互いの意思疎通にも影響を及ぼし、ぎくしゃくすることが多くなりがちになる。身体を使う遊びは、気持ちを育てるためにはとても重要なのである。子どもたちには、この感覚を養うために、思い切り自分の身体を使って遊べる機会や場所が必要である。

 もともと障害のある子どもの遊び場は少なかったが、2011年3月に発災した東日本大震災およびその後、発生した福島第一原発の事故により、さらに状況は厳しくなった。福島県内の一部地域では、外で遊ぶことのできる場所が限定されるようになり、放射線の体への影響を心配した親が、子どもを外に出すことをためらう。また数少ない遊び場であった体育館等の公共施設は、避難所となって遊び場として使用できない状況が続いたのだ。

 「なんとかしなければ」と思っていた時に、岡本さんがボランティアで参加している「障害がある子どもたちの親の会(勉強会)」からも要請を受けた。岡本さんが統率者となって郡山市にかけあい、公共施設の会議室を借りはじめたのが「遊びの会(正式名称:あしかの遊びの会)」の取り組みだ。

 「遊びの会」の遊び場には、子どもたちが楽しく元気に遊べる、というだけでなく、作業療法士の視点を生かして、子どもの発達を促すような工夫が盛り込まれている。バランス感覚などを養うためのトランポリンやすべり台、自分の体をどのぐらい小さくすればくぐれるのか、身体の動きを工夫する段ボールのトンネル。その他にも紙やボールのプール、おにごっこ、球技、縄跳び、風船、シャボン玉、地面や塀のお絵かきなど身体を使って感覚を刺激する遊びをたくさん用意している。

 最初は、1ヵ所で始まった「遊びの会」も今では、さまざまな企業や団体が協力し、場所を提供してくれ、市町村や学校の体育館・病院の講堂・フットサル場等で行われるようになっている。この「遊びの会」が始まった当初から、運営ボランティアには、小学校の教員、医療・福祉職を目指す学生、また保健師や保育士などが参加している。それぞれが「遊びの会」で得た気づきや学びを持ち帰り、家庭や自分たちの持ち場で活用する。また「遊びの会」から人間関係が広がり情報交換や新たな関係を築くなど、地域の中での交流の場にもなっている。お母さん同士が笑顔で安心している姿を見ると子どもたちも安心して遊び、初めて会う子ども同士でも気兼ねせずに遊ぶことができるようになる。「初めは恐る恐る動かなかった子も、乱暴で手が付けられないほど暴れていた子も、この空間で少し時間を過ごすことで、少しずつみんなと遊べるようになります。それは、ここにいる大人たちが、障害を理解して子どもを受容し自然に接すること、一緒に遊ぶことなんです」。

 また、遊びの会のスタッフにはルールがある。それは、①自分が傷つくようなことがあったら間髪入れず注意すること、②他人を傷つけるようなことがあったら間髪入れず注意すること、③大人から子どもを誘わず、子どもから遊びに来るまで待つこと(自主性を大事にし、遊ぼうかどうしようかと迷うことを大切にするため)、あとは、見守ることである。

 作業療法士が「遊びの場」に関わることでの利点は、「模倣できるか」など、子どもの状態を評価し、子どもの認知度や障害にあわせてどの遊びがよいかを選び組み合わせることができること、「これができるようになった」などと「遊び」の成長段階を確認することができこと、子どもの遊んでいる姿をみて、親御さん・先生たちに助言できること、医療・地域・行政とお母さんたちをつなぐことができ、遊びの場を通して地域のコーディネーターができることである。「もちろん、なによりも良いことは、子どもたちが笑顔で汗びっしょりになって遊ぶということです。子どもは『風の子』であり、思いきり身体を動かせば子どもはみんな『風の子』になり、遊びを通して子どもの自信に繋がる…と固く信じています」と岡本さん。

 活動は地域おこしとも連動する場合がある。例えば、婦人の会も遊びの会に参加し、昼食の炊き出しを行ってもらうなど、さしずめ小さなキャンプのようでもある。この「遊びの会」をきっかけに行政の住民課や地域の保健所・保健センター等から、支援の輪が広がりつつある。

 子どもたちの「遊びの場」作りの取り組みが、今では地域の子どもたちをはじめ、地域の子どもに関わる人たち、町おこしの場へと成長している。

子どもたちの「遊びの場」作り

(写真:関 大介)

■施設情報
一般社団法人ふくしまをリハビリで元気にする会
〒961-0083 福島県白河市金勝寺180-11 大花ハイツ101(行政書士 角田千惠子事務所内)
電話:024-907-2164