OTのスゴ技(作業療法士)

ベッドの上で過ごす時間をもっと快適に。OT流ベッド活用法

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福祉用具

国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科准教授の窪田聡さんがベッドの研究をはじめたのは、12年前のこと。大学院で「福祉援助工学」を学んでいる時のことでした。

ベッドの上で過ごす時間をもっと快適に。OT流ベッド活用法

 国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科准教授の窪田聡さんがベッドの研究をはじめたのは、12年前のこと。大学院で「福祉援助工学」を学んでいる時のことでした。
 「ある終末期の患者さんと出会ったことがきっかけです。いつもは寝たきりで、家族が来た時には体を起こして出迎えたいのですが、起こすと身体がずり落ちてしい、起立性低血圧になって、めまいなどが起こってしまう。せっかく家族と過ごす貴重な時間、家族に残したい大切な時間なのに、起きることができない。どうすればいいのか」。

 長期にわたる病気療養やリハビリテーションなどで、退院までの長い時間をベッドの上で過ごさなくてはならない。あるいは寝たきりの高齢者や、末期がん患者などで、残された人生の貴重な時間を、ベッドの上で過ごす。その時間の質を、少しでも高めることはできないのか。「寝たきりでは、天井しか見えません。上体を30度起こすと、そばにいる人の顔が見える。60度起こすことで、半身が見え、きちんと人と話ができるようになる」(窪田さん)。「体に負担をかけない上体の起こし方」を研究することで、ベッドの上で生活を送る人たちの暮らしを、よりよいものにできるのではないかと考えました。

 そこでまず、「三次元動作分析装置」を使って、「ベッドの上で身体を起こすと、どうして身体がずり落ちてくるのか」を研究しました。その結果、それまでのベッドでは、ベッドを起こした時に、身体をちゃんと支えられていない、ということが分かってきました。「上半身には、ベッドの構造によって支えられていない部分ができていました。特に腰から下が支えられておらず、胸背部ばかりがベッドに押されていました。さらに、一番下で骨盤を支える構造がありませんでした。ですから、上半身がどんどんずり落ちる構造になってしまっていたんです」(窪田さん)。医療用ベッドには、標準機能として「ひざ上げ機能」が付いているものが多く、ひざを上げることによって、上半身を支えるようになっていますが、窪田さんは「ベッドの標準機能であるひざ上げ機能を使うと、かえって身体が崩れることがあるんです」といいます。日本人の身体にはベッドが合わないことが多く、ひざ上げ機能を使うことで骨盤が倒れてしまい、身体を支える土台ができない、というのです。

 研究の結果わかってきた、身体に合ったベッドの使い方のポイントは、次の通りです。

●起こした時に背中全体がベッドの床板に着き、背中全体をしっかり支えてくれるベッドを選ぶ。
●寝る位置は、一度、頭がヘッドボードにくっつくくらい上部に合わせる。
●その状態でベッドを起こし、身体を少しずり落ちさせて調節する。
●ひざ上げ機能を使うのではなく、個人の足の長さに合わせて膝の下にクッションを入れてあげることで、骨盤の位置を固定する。

 「こうしてみると、医療の現場では、熟練の看護師さんが経験上やっていることなのかもしれません。でも、そのことをデータで立証し、体系化できたことがよかった」と窪田さんは言います。

 今、窪田さんが研究しているのは、ベッドの上で体を起こした時の、呼吸器と循環器の関係性についてです。「体を起こすと、呼吸は楽になります。横隔膜が下がって、肺が広がるからです。呼吸が苦しい人は、体を起こせばいいのだけど、今度は循環器に負荷がかかり、中には起立性低血圧になる人もいる」。呼吸を楽にしながら、循環器にも負荷をかけないように体を起こすことはできないか。窪田さんは「心臓を高くしないで、上部体幹を起こす。つまり、上半身すべてを起こすのではなく、上部体幹を中心に起こせばいいのでは」という仮説を立てました。実証してみると、上半身の下部を30度、上部を60度の角度にして検証してみると、呼吸を楽にしながら、心臓1回当たりの拍出量は維持できて、心拍数も増加しないことが分かってきました。「臨床では、ベッドを30度ほど起こしてから、背中に枕やクッションを入れてあげると、そういう状態にすることができます」(窪田さん)。

 身体を治し、ベッドから立ち上がる人だけでなく、ベッドで長い時間、時には最後の時間を過ごさなくてはならない人がいる。「作業療法士としての視点があったから、こういう研究テーマを選んだのだと思います。その人なりの、時間の過ごし方、思いをかなえたい」と窪田さん。作業療法士の視点から見た、ベッドの活用法についての研究は、これからも続きます。

窪田さんの論文より。真ん中が、呼吸器にも循環器にも負荷をかけない身体の起こし方(出典:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S156607021500003X)

窪田さんの論文(Autonomic Neuroscience, 189, 56-59, 2015)より。真ん中が、呼吸器にも循環器にも負荷をかけない身体の起こし方
(出典:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S156607021500003X

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