はたらくことは、いきること

医療の現場でできる就労支援の場を、作業療法士がつくる

はたらくことはいきること

就労支援

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター 鹿教湯病院
 働き盛りの年代の脳血管疾患患者にとって課題となる「就労」。病院内に、就労を支援する「場」をつくることで、課題を解決しようとする作業療法士がいる。

医療の現場でできる就労支援の場を、作業療法士がつくる

 長野県上田市の鹿教湯三才山(かけゆみさやま)リハビリテーションセンター鹿教湯病院の入院患者は、脳血管疾患が半数を占めており、その中には、高齢者だけではなく中高年の、働き盛りの年代の患者もいる。「そうした『若い』脳血管疾患患者の『就労』が、気になっていました」と話すのは、同院の作業療法士、織哲也さんだ。もちろん、就労を目指す人は、退院後、地域障害者職業センターなどで職業訓練を行いながら仕事を探すことができる。しかし織さんは、より早い段階、できれば入院時から、就労を意識したリハビリテーションを行うこと、また作業療法士の専門性を生かした方法で就労支援を行うことが、脳血管疾患患者の就労には必要なのではないかと考えた。「患者の多くが、身体障害だけでなく、高次脳機能障害を抱えています。記憶障害や行動障害などが複雑に絡んだ高次脳機能障害への就労支援の方法については、まだわからないことも多い。医療の現場でできることはなにかと考えました」。

 そこで同院リハビリテーション部では、就労支援を目的とした多職種からなるワーキンググループ(就労支援連絡会)を立ち上げた。ワーキンググループの取り組みは大きく三つある。一つ目は情報共有の仕組みづくり。毎月の定例会議では回復期病棟・地域包括ケア病棟に入院する65歳以下の患者を選定し、就労支援の必要性の有無などを確認している。より詳細な支援を行う際は患者の担当チームと連絡会メンバー合同で「サポート会議」を開催している。「就労を希望する患者に対してはワーキングループの作業療法士がアドバイスしますが、その一方で通常のリハビリテーションの時間には、別の担当がいる。両者が情報共有し、意識を合わせることが大事です」。

 また同院作業療法科では「作業広場」という院内デイを運営しており、同ワーキンググループのメンバーが常駐し、就労支援の場として活用していることが特徴である。「作業広場」は、希望する患者は誰でも参加が可能で、平日16時から17時の1時間開かれている。院内で不要になった箱や紙、靴下から出る廃材などを使った手さげ袋や座布団などの身の回りで使えるグッズを作っている。「必ずしも就労を目的とした人だけが利用するのではなく、誰でも利用できるようになっています」と織さん。就労を希望する人には、作業広場のスタッフの一員として動いてもらうのだという。「部屋の準備や後片付け、また院内で不要になった資材の引き取りや在庫管理などの仕事は、コミュニケーションや段取りが要求されますので、就労の準備になります」。この作業広場に、それぞれの患者の担当も顔を出し、情報を共有する。そうすることで、就労という視点から見た場合のその人の課題や可能性が見え、それを普段の作業療法士の時間にフィードバックすることができるようになったという。

 さらにユニークなのが、退院後のサポートだ。退院後1ヵ月、半年、1年をめどに、勤労状況や課題などを電話でヒアリングしている。「医療の現場では、地域に戻ってからの状況をなかなか把握できないことが悩みでしたが、電話でヒアリングすることで、病院で行った支援が効果的だったのかが把握でき、今後の活動に生かすことができると考えました」。

 同院では2017年度は34人が復職ないし新規就労により仕事に就くことができたという。また取り組みを通じ、病院内のリハビリテーション職同士の情報連携が活発になったり、また地域の医療・福祉との連携が緊密になるという効果もあったという。

 医療の現場で、作業療法士の専門性を生かしながら就労支援の「場」を作ることが就労の可能性を高め、また院内のリハビリテーション職同士の連携も高める。作業療法士の「場」づくりの視点が活きた事例だ。

■施設情報
JA長野厚生連 鹿教湯三才山リハビリテーションセンター 鹿教湯病院
〒386-0396 長野県上田市鹿教湯温泉1308
電話:0268-44-2111(代表)