作業療法士Q&A

どうすればリハビリのモチベーションは向上する?

作業療法士Q&A

Q.  デイサービス職員です。「リハビリをして歩けるようになりたい」という希望がある高齢者・・・

どうすればリハビリのモチベーションは向上する?

Q.

 デイサービス職員です。「リハビリをして歩けるようになりたい」という希望がある高齢者なのですが、歩く練習はするものの、更衣動作やトイレ動作での動作協力がなく、「歩くだけがリハビリ。それ以外は介助をしてもらいたい」という思いがあるように感じられます。自分で自分のことをできるようになることがリハビリの意味だと思っていますが、どのようにかかわると意欲向上につながるのでしょうか?

A.

 私たち作業療法士は、更衣などの日常動作・家事・仕事・余暇・地域活動など、人が日常生活を送るうえで営まれているあらゆる作業を“生活行為”と捉えております。こうしたいくつもの生活行為が、歯車のように、互いに絡み合いながら日常生活を形成しています。

 例えば、トイレに行くために歩く、お風呂に入るために洋服を脱ぐ、といった具合に、それぞれの行為が関連しあっていることもあれば、畑仕事をした後に汗を流すためにシャワーを浴びる、汚れた作業服を洗濯する、といったように、仕事や余暇活動と行為が関連しあうこともあります。また、大好きな映画を見に行くために、事前にバス時刻を確認し、友人とともに当日の予定を相談し、身だしなみを整えて出かけるとなれば、実にたくさんの生活行為が関連しあってきます。この関連性を上手に活用しながら動機づけを図ってみてはいかがでしょうか?

 対象者は歩けるようになることに強い希望があるものの、それ以外の更衣や排泄は協力動作が見られない状況のようですが、質問者様としては、対象者がそこに必要性を感じて自主的に取り組むことで、より元気になるのでは?とお考えのことと存じます。一方で、対象者がその必要性を感じなければ、無理に進めたとしても、その先の自主性や習慣化には繋がらないことも予想しておられることと存じます。では、対象者がその必要性を感じるための“動機づけ”をどのように図っていくか?について、作業療法士が普段大事にしていることを挙げてみます。

①まずは意向の聴き取り方が重要です。  「歩けるようになったら何がしたいですか?」「歩けるようになることでどんな生活をイメージしていますか?」「行ってみたいところ、出かけたいところはありませんか?」と聞いてみるのはいかがでしょうか?例えばそこで、「本屋に行きたい」「友人と食事に出かけたい」といった意向があれば、「本屋やレストランでトイレに行きたくなった時のためにも、歩行とあわせて練習しておきましょうか」「出かけることとトイレは関連してますからね」といった展開が期待できるかもしれません。歩行練習の合間などに聞いてみると、より効果的かもしれません。歩行レベルの向上過程では意欲が生まれやすいものです。

 もしも、なかなか会話が進まないときは、「興味関心チェックシート」の使用をお勧めします。これは、約50種の生活行為が記載された用紙で、対象者と会話を楽しみながら、興味関心のあるものにチェックをしつつ、意欲を引き出すきっかけづくりの手段となります。協会ホームページからダウンロードできますので、是非ご活用ください。

http://www.jaot.or.jp/wp-content/uploads/2014/05/seikatsukoui-2kyoumikanshin-checksheet.pdf

②関係性を築きながら、「何をしている時に楽しさを感じるか?」をお聞きします。  対象者を支援するうえで、関係性を築くことは一番の土台となります。これまでどのような人生を送ってこられたのか?を関心を持ってお聞きしつつ、関係づくりに努めます。そうした会話の中で、「何をやっているときに楽しさを感じますか?」「どんな時に幸せを感じますか?(充実感・達成感・満足感でもよい)」と聞いてみるのもよいでしょう。例えばその答えが「友人とゴルフをしているとき」であれば、“共通の趣味を介して人と楽しみを共有しているとき”と言い換えることもできますし、「日曜大工をして家族から喜ばれたとき」であれば、“自分の能力を人から求められ、それに応えたとき”と言い換えることもできます。対象者の有する能力を見極めたうえで、このような「場面・機会・出番」を用意してみてはいかがでしょうか。ポジティブな感情を再体験することで、できることはやろう!できることを増やしていこう!という気持ちに派生するかもしれません。

③グループを活用してみます。  これは前項で述べた、場面・機会・出番の用意とも関連することです。デイサービスの利点のひとつに、グループを形成できることが挙げられます。他利用者の存在を上手に活用することで、スタッフの働きかけだけでは得られにくい効果や影響を生むこともできます。元気づくりのためにしている努力・習慣・役割ごとなどについて語り合う機会を持つことで、似たような障害像を持つ仲間に倣い、自分も頑張ってみようと思うに至るかもしれません。ただしこの場合は、何を狙いとするか、そのためにどのようなメンバー構成にするか、どう運営するかなど、よい方向に導くためのグループ操作にそれなりの技術が必要になるため、スタッフの入念な下準備が必要です。グループ操作については、一定の研鑽・経験を積んでいる作業療法士やソーシャルワーカー等がお近くにいらっしゃいましたらご相談してみて下さい。

 以上、対象者の詳しい状態像は分かりかねますが、動機づけに焦点を当てて、作業療法士としての基本的な考え方をお答えさせていただきました。当然ながら、ここに示した①~③と並行して、ご自宅環境を拝見し、どのような環境で様々な生活行為を行っているのか?または、今後しなければならないのか?自宅環境と対象者の能力は適合しているか?または、今後適合していけそうか?また、ご家族の健康状態や協力体制といった人的環境についても、しっかりとアセスメントしておく必要があります。そのうえで、課題の整理・目標設定・動機づけ・プログラム設定をすることが必要です。

 結びに、質問者様のような志の高い方に頼りにされ、一緒に努力できる作業療法士でありたいと思っております。この度は、ご質問ありがとうございました。

■回答
医療法人社団東北福祉会 介護老人保健施設せんだんの丘 支援相談員 三浦 晃


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