TEAM OT

高次脳機能障害を地域で、チームで支える

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高次脳機能障害

とちぎリハビリテーションセンター・笠原祐子さん
 事故や病気などにより脳に損傷を受けることで発症する高次脳機能障害。各都道府県に高次脳機能障害支援拠点機関はあるがまだ支援に格差がある。支援ノウハウの蓄積や、支援体制を整備する必要性が高まっており、それぞれの地域にとって課題を抱えていることが多い障害だ。栃木県で、高次脳機能障害支援に取り組んでいるチームと、その中で働く作業療法士を訪ねた。

高次脳機能障害を地域で、チームで支える

高次脳機能障害当事者への相談支援をする笠原祐子さん

 交通事故や脳出血など脳に損傷を負った場合に、物忘れなどの記憶障害や、ぼんやりして集中できないなどの注意障害、一つのことを最後までやり遂げることができない遂行機能障害、さらには怒りっぽくなるなどの社会的行動障害などのさまざまな症状が出ることがある。「高次脳機能障害」と呼ばれるこれらの障害は、身体障害や知的障害、あるいは一般的な精神障害とは症状が異なるため、支援ノウハウの蓄積や支援体制の確立が必要になっている。体制がいまだ不十分ななか、患者は若年から中高年まで年齢層が幅広く、彼らの社会参加を促進することは喫緊の課題となっている。

 作業療法士・笠原祐子さんは、とちぎリハビリテーションセンター相談支援部の発達・高次脳機能障害支援課に勤務し、高次脳機能障害領域の担当として、栃木県下の高次脳機能障害当事者の支援およびこの障害の啓発に当たっている。

 栃木県で高次脳機能障害に対する支援が本格的に始まったのは、2010年(平成22年)のこと。高次脳機能障害支援のための拠点機関を、とちぎリハビリテーションセンター内に設置することになった。以前から高次脳機能障害に対する支援の必要性が全国的に高まっており、栃木県でもその声を受けて立ち上げたのが、この拠点機関だ。

 「高次脳機能障害は、患者数も少なく、また病気そのものも周知されていないため、当事者や家族など周囲の人たちも、病気自体に対する情報はもちろん、支援してくれる団体や相談できる機関の情報も少ないのが現状です」と笠原さんは言う。また、「障害者自立支援法」(現在の障害者総合支援法)が2012年に施行された際に、高次脳機能障害が精神障害に該当するとして障害者手帳の発行が認められたが、「それでも高次脳機能障害が、身体障害にも精神障害にも入らない、福祉制度や支援の網の『谷間』に置かれている状況は変わりません」とも言う。当事者および家族の生活を支え、社会復帰を支援するのが、とちぎリハビリテーションセンターの役割だ。

 とちぎリハビリテーションセンターで行われている高次脳機能障害相談支援事業の具体的な内容は、下記の4種類に分けられる。

  1. 当事者およびその家族から相談を受け、地域の関係機関などと連携しながら支援を行う「相談支援」
  2. 各市町村や相談支援事業所などに出向いて、地域の機関を支援する「地域支援」
  3. 当事者・家族、あるいは、市町村窓口や支援機関などの支援者や医療機関の専門家にむけた「啓発・研修」
  4. 当事者会や支援機関などとの関係性を構築する「連携構築」

 高次脳機能障害の支援においては、当事者およびその家族から寄せられる個別の相談に丁寧に対応し、それぞれに最適な支援の形を作ることも重要だが、同時に、各支援機関や医療機関に対し、高次脳機能障害についての認識・理解を深めてもらうと同時に、連携しながら支援を行うための関係性を構築することも重要になってくる。この①~④の事業によって、当事者に対する支援も行いながら、行政や支援機関への支援ノウハウの伝達、連携強化にも取り組んでいる。

 とちぎリハビリテーションセンターの高次脳機能障害相談支援事業は、3人のコーディネーターによるチームで運営されている。作業療法士の笠原さん、発達・高次脳機能障害支援課の課長であり、保健師の資格を持つ大賀昌子さん、そして県の職員として、長年行政に携わった経験を持つ斎藤弘美さんだ。それぞれがお互いの持っている知識・経験を活かしながら、相互に補い合って取り組んでいる。

 大賀さんは、保健師の相談経験を通じ培った医療の専門知識に加え地域の医療機関や事業所など、支援に活用できる地域資源にかかわる情報を持っている。

 斎藤さんは相談支援業務はもちろんだが、「行政のプロ」として、予算や制度など手続きについての経験があり、ある施策を行うときに、県との調整役を果たし、スムーズに事業を動かしていく。

 そして笠原さんは、作業療法士として、疾患の知識を活用しながら、患者がどのような社会生活を送ることができるのかについての見通しを伝える。「たとえば検査の結果を見ながら、『この人ならここまでの生活が送れるんじゃないか』、『こんな仕事であればできるのではないか』といった評価をすることは、私たち作業療法士の専門領域です」と笠原さんは言う。基本的な業務はこの3人のコーディネーターによって進められるが、状況に応じて医師や言語聴覚士などといった他部門の専門家の力も借りる。

 「作業療法士は、一人ひとりの当事者に寄り添って、その人らしい暮らしを送るための最適な支援を考え、提案することが得意です。そこから広げて、地域全体に高次脳機能障害への認知を広げ、支援の網を広げていくためには、地域資源や行政との連携は欠かせません。その意味で、このチームはそれぞれが持っている強みを活かすことができていると思います」と大賀さんは話してくれた。

 専門職がそれぞれの職能を持ち寄り、チームを組むことで、地域全体で高次脳機能障害を支えるために解決しなければならないさまざまな課題に取り組んでいくことができる。その中で、作業療法士が果たす役割は大きい。

がんの「その後」を、生きていくために

大賀さん(左)、斎藤さん(中)とともに、チームとして栃木県下に高次脳機能障害の認知・理解を浸透させる取り組みを進める笠原さん(右)。

■施設情報
とちぎリハビリテーションセンター
〒320-8503 栃木県宇都宮市駒生町3337-1
電話:048-623-6114