こんなところで!作業療法士

「働きたい人」を、周囲の環境も含めて支援する

こんなところで作業療法士

就労支援

医療法人社団KNI 北原国際病院 就労支援室
 なんらかの疾患により働くことができなくなった人が、再び働くことができるようになるには、その人自身が能力や機能を回復させることも重要だが、同時に職場や仕事内容の調整をすることが欠かせない。脳血管系の疾患から就労を目指す人たちを支援する作業療法士の「就労支援室」の取り組みについて取材した。

「働きたい人」を、周囲の環境も含めて支援する

 東京都・八王子市、八王子駅からバスと徒歩で20分ほど。国道20号線を少し入った、閑静な住宅街の中に、北原国際病院がある。リハビリテーション科では、主に脳梗塞や脳出血など脳血管系の疾患を中心とした急性期リハビリテーションを行っているが、その中に「就労支援室」というユニークな取り組みがあると聞き、ある日の就労支援室の活動を見学させていただいた。

 リハビリテーション室のそばにある一室が、「就労支援室」になる。毎週月・水・金曜日の朝9:00~12:00までの3時間、就労をめざす人たちが、実際の業務に近い作業を訓練として行う。これは、就労支援室の訓練の一つである「Jトレ」(再就労を希望する方を対象にした北原国際病院独自のプログラム)である。この日は6名ほどが参加、それぞれにタイマーを机の上に置きながら、表作成や計算、パソコン操作など、事務作業の訓練を行っていた。北原国際病院リハビリテーション科就労支援室の峯尾舞さんは「訓練は、既存のプログラムをベースに、その人の身体や認知の状況、あるいは今後就きたい仕事の内容に合わせて組み合わせています」。と言う。

 この就労支援室で行うことができるのは、保険診療の範囲内の支援に限られる。先ほど見学したような訓練とその評価、あるいは作業療法士による面談などは行うことができるが、さらに就労に近づくための通勤訓練や企業実習、あるいは採用面接への同行、就労支援機関などへの同行などは、医療機関である就労支援室では行うことができない。そこで峯尾さんたちは、「Jトレ」とは別に、2つの取り組みを行っている。一つは、病院内のボランティアサークルだ。書類の折込や物品整理など、病院内の軽作業をボランティアとして引き受けるサークルの運営を行い、「Jトレ」の訓練だけでは不足を感じる人や、意欲のある人に参加してもらうことで、より就労へのイメージを具体的に持ってもらうことが目的だ。さらに有限会社として、「就労支援サポートサービス明日葉」を立ち上げ、通勤訓練や企業訪問など医療機関としてはできないような支援を行うことで、就労までのプロセスを全体的に支援できるような体制を作った。

 峯尾さんは「脳血管系の疾患は、身体的な障害はもちろんですが、その人の認知面や、生活の履歴、家庭環境や職場環境などの背景情報を総合的に捉えることが必要です。また、就労までのプロセスも、きまった道筋があるわけではないんです。発症時、仕事に就いていた方は、復職を望まれる方が多いのですが、完全に元の状態に戻ることは難しいので、同じ職場に戻るとしても、仕事の内容、やり方を変えなくてはいけないことも多いです」と言う。峯尾さんたち作業療法士は復職や新規就労に際して職場を訪れ、職場環境や業務内容の評価をし、場合によってはその人が働きやすいようにデスクの位置変更や、同僚に対して必要な配慮に関する情報提供などの環境調整を行う。また同時に、通勤環境や家族の支援状況などについても評価しなくてはならない。「私たち作業療法士は、その人の置かれた状況を多方面から評価し、その人の意思を汲み取りながら、その人に合わせた支援の方向性を決めることができるのではないかと考えています」。

 平成27年度、就労支援室を利用した人は43人。また何らかの形で進路が決まった人、つまり「卒業」した人は16人で、そのうち7名がもとの職場に復職し、1名が新規に就労、その他の8名が、就労移行支援事業所や就労継続支援事業所など、いわゆる福祉系のサービスに移行したという。「就労をめざしても、すぐに希望がかなうわけではありません。ですから、企業だけでなく福祉サービスをはじめとする地域のさまざまな機関とも連携する必要があります。連携に際しても、私たちが作業療法士としての視点から気づいたことなどを情報共有することで、よりよい連携が作れると思っています」。

 再び働くことができるようになるためには、その人自身はもちろん、職場や家庭など周辺環境を評価し、調整していくことが不可欠だ。そして何よりも、対象者の就労の可能性を信じ、対象者と共に、様々な道すじを考えることが求められる。その意味では、就労という領域に、これからますます作業療法士の視点が必要とされていくだろう。

「働きたい人」を、周囲の環境も含めて支援する

「就労支援室」での訓練の様子。必ずタイマーで時間を測定することで、作業効率アップをめざす

■施設情報
医療法人社団 KNI 北原国際病院
〒192-0045 東京都八王子市大和田町1-7-23
電話:042-645-1110