私のスタートライン

作業療法は、人生の楽しみや豊かさを作るもの

私のスタートライン

医療法人社団協友会 介護老人保健施設 リハビリポート横浜・中島沙紀さん
 神奈川県横浜市にある「リハビリポート横浜」に、今年(2016年)の4月から勤務する中島沙紀さん。小さな集落で育ち、子どものころから高齢者と接する機会の多かった中島さんが作業療法士を目指す「スタートライン」は、曾祖母の介護の経験だった。

作業療法は、人生の楽しみや豊かさを作るもの

 母が医療事務職として勤務していたこともあって医療職にはなじみがあり、子どものころから医療関係の仕事をしたいな、と漠然と考えていました。自分の将来について具体的に意識するようになったのは、中学生の時です。一緒に暮らしていた曾祖母が認知症になり自宅で介護していたのですが、その時の介護の様子に疑問を持ったのがきっかけになりました。家族は一生懸命に介護していたのですが、思春期だったこともあって、「もう少し、ひいおばあちゃんにとっていい方法があるんじゃないか」と反発を覚えてしまったんです。今から考えれば、ソーシャルワーカーなど外部の福祉関係の人にきちんと相談できていればよかったのかもしれません。当時は家族の誰もそんな知識もなく、精神的な余裕のない中で曾祖母の介護をしていました。その経験があって、医療職よりも福祉職に就きたいと思うようになりました。はじめは介護福祉士がよいのではないかと思いましたが、調べていく中でリハビリテーションの仕事に出会いました。理学療法士と作業療法士とで迷いましたが、作業療法士が行うリハビリテーションに共感し、最終的に作業療法士を目指すことにしました。

 臨床実習では、作業療法士は人間性が問われる仕事なんだ、と痛感しました。担任の先生からは「実習では、コミュニケーションを取ることがすごく大事」と言われていたのですが、臨床実習に出るまでは、そのことを本当の意味では理解できていなかったと思います。私は神奈川県小田原市内の、小さな、高齢者の多い集落で、近所のおじいちゃんやおばあちゃんにかわいがってもらいながら育ったんです。ですから、高齢者と話をすることは好きでしたし、得意なつもりでした。でも、臨床実習の場では、年上の利用者や、疾患を持っている人とどう接していいか、戸惑いがありました。ただ楽しくお話しするだけでなく、医療従事者として必要な情報を取得するためのコミュニケーションをしなくてはいけないからです。例えば、自宅の周辺の状況や、家族関係について。あるいはこれからどんな暮らしを希望しているのか。その人の「暮らし」に踏み込んで聞いていかなければいけない。そのために、どうアプローチすればいいのか、なにを聞いていいかもわからない。とてもいい経験になりました。

 卒業時には、老年期の領域での就職を志望しました。現在働いている「リハビリポート横浜」には通所リハビリテーション・入所リハビリテーション・訪問リハビリテーションがあり、老年期の領域でさまざまな経験をすることができるので、やりがいがあります。今は入所施設で6名、また通所の方を数名担当させていただいています。利用者の方とお話をしていると、人それぞれ大事にしているものや、価値観が違うことがわかってきて、とても面白いと感じます。人とおしゃべりすることが好きな人もいれば、一人でいることが好きな人もいる。私は、それぞれの考えかたや価値観をまず一回受け止めて、それからどうしていくのがその人にとって一番いいのかを考えるようにしています。

 今後はこの施設で、利用者さんとのかかわりを深め、経験を重ねていくと同時に、研究活動にもかかわっていきたいです。大学では、嚥下(食べ物の飲み下し)と、ベッドの上での姿勢の研究をしていました。認知症とのかかわりも深い嚥下の研究を続けていければ、と思っています。嚥下に興味を持ったのは、ごく個人的な経験がきっかけなんです。初めての実習では、忙しい中でも、三度の食事だけは大事にしていました。食事の場は、私にとって、唯一の憩いの場だったんです。そのとき、生活行為の中でも、食事は楽しみにもなりえると感じました。食事に課題を抱えている人は、人生の楽しみが少ないのではないか、誰でもおいしくものを食べたいんじゃないか、と感じたのがきっかけです。私は、作業療法は人生の楽しみとか豊かさを作るものだと思っていますから、臨床でも研究でも、常にそのことを意識しています。

作業療法は、人生の楽しみや豊かさを作るもの

■施設情報
医療法人社団協友会 リハビリポート横浜
〒247-0014 神奈川県横浜市栄区公田町1050-2
電話:045-897-4580(代表)