ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第4回 運動器領域(大腿骨近位部骨折)

はじめに

本会は2025年度重点活動項目として掲げる「疾患別作業療法の評価及びプログラムの ICF による可視化と実践の推進」に取り組んでおり、本連載では、ICF(国際生活機能分類)に基づいて可視化し、実践につなげる取り組みについて紹介しています。この取り組みは、ICFの枠組みを用いて疾患ごとの作業療法評価を整理する「疾患別作業療法標準化事業(以下、標準化事業)」として進められています。

第4回となる今回は、運動器疾患領域の一つである大腿骨近位部骨折を対象とし、ICFに基づく作業療法アセスメントセットの概要とその開発プロセスについて紹介します。

大腿骨近位部骨折における作業療法について

大腿骨近位部骨折は、高齢化の進展に伴い増加している代表的な運動器疾患の一つです。日本整形外科学会監修の『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)』および厚生労働省の資料によると、2020年の国内発生数は約24万例と報告されており、2040年には30万例を超えると推計されています。この骨折は歩行能力や日常生活動作に大きな影響を及ぼすため、受傷後の生活機能の再建において作業療法が果たす役割は重要です。一方で、臨床現場では評価項目の選定が施設や経験に依存している場合も多く、評価の標準化が十分とは言えない状況があります。

本事業では、ICFの枠組みに基づき、大腿骨近位部骨折に対する作業療法評価を体系的に整理し、評価の標準化を図ることを目的としています。評価を整理し明確化することで、将来的な大規模データの蓄積やエビデンスの創出につながることが期待されます。 

大腿骨近位部骨折におけるICFに基づく作業療法アセスメントセットの開発

本事業では、大腿骨近位部骨折に対する作業療法に必要なICFコードを明らかにし、その適切性を検証することで、ICFに基づく作業療法アセスメントセットを開発することを目的としました。そのため、専門家の意見を集約して合意形成を図る研究手法であるデルファイ法を用いた調査を実施しました(図1)

図1 デルファイ調査の概要

この調査には、専門家パネル(以下、エキスパートパネル)として、公益社団法人日本整形外科学会または公益社団法人日本リハビリテーション医学会に所属し、大腿骨近位部骨折の診療や研究において実績のある整形外科医またはリハビリテーション科医3名と、本会から推薦された作業療法士6名の計9名が参加しました。

また、本事業を進める運動器領域のワーキンググループは、前組織の学術対策小委員会を中心に結成しました。

本調査では、前々号の第2回:精神科作業療法領域、前号の第3回:認知症領域の調査と同様にデルファイ法によるアンケート調査を実施しました。デルファイ法とは、複数回の質問票調査とその結果のフィードバックを繰り返すことで、専門家の意見を収束させて合意形成を図る研究手法です。

本事業では、より体系的な合意形成を行うために、デルファイ法の一種であるRAND Delphi法を用いました。初期ICFコードは「大腿骨近位部骨折」「作業療法」をキーワードとした文献検索(海外19件、国内17件)、本会の事例報告ならびにワーキンググループ構成員の臨床経験をもとに58項目を抽出しました。これらについて計3回のデルファイ調査を行い、各項目の適切性を評価しました。合意基準は「外れ値2以下」としました。

第1回調査の結果はワーキンググループおよびエキスパートパネルで共有し、ICF項目の追加および修正を行いました。その後、第2回、第3回の調査を経て、最終的に53項目を合意項目として採択しました。

抽出された53項目の内訳は、心身機能および身体構造23項目、活動・参加22項目、環境因子8項目でした(図2)。この構成により、症状や機能障害に偏らず、生活機能全体を横断的に捉える評価の枠組みが示されました。その結果、臨床推論や目標設定、計画立案を支える作業療法アセスメントセットとして提示することができました。

図2 デルファイ調査の結果、選出されたICFコードおよび個人因子

臨床での活用

本アセスメントセットは、チェックリストとして単に項目を埋めることを目的とするものではありません。評価の抜けや漏れを減らし、臨床判断や目標設定の共通の土台をつくることを目的としています。想定される活用場面は、たとえば次のとおりです。 

まず、急性期・回復期・生活期等、リハビリテーションの時期が異なる場合でも共通の枠組みで生活機能の全体像を整理しやすくなります。特に急性期では、リスク管理に関する評価の視点を明確にすることで、迅速な臨床判断につながります。

また、活動や参加に関する課題を整理することで、生活行為の獲得や環境調整、社会資源の活用等につなげやすくなります。

さらに、ICFの項目を共通言語として用いることで、多職種間で生活機能に関する情報を共有しやすくなります。

加えて、リハビリテーションの成果を症状の改善だけでなく生活行為の変化として説明しやすくなり、本人や家族への説明、多職種や地域機関との情報共有にも活用できます。

また、ICF項目に基づく評価を行うことで評価内容が標準化され、施設を越えたデータの比較や統合が可能になります。これにより、将来的には全国規模での実態把握やアウトカム検証につながることが期待されます。

今後の展望

本事業により、大腿骨近位部骨折に関連するICFコードが体系的に整理されました。現在は各ICFコードに対応する具体的な評価指標の選定を進めています。

本事業は①疾患別評価・介入枠組みの作成、②全国実態調査から介入研究への発展、③作業療法アウトカムの明示、④関連学会と連携した情報発信、という4つの柱から構成されています。本稿で紹介した取り組みはその第1段階にあたります。今後は全国規模の実態調査へと展開し、臨床家が広く活用できる作業療法評価体系の構築を目指していきます。

【参考文献】

1)日本作業療法士協会:作業療法ガイドライン2024年度版(閲覧日:2026年3月3日)

2)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン策定委員会編:大腿骨頚部/転子部診療ガイドライン2021 改訂第3 版,南江堂,2021

3)厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000868120.pdf(閲覧日:2026年3月3日)