ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第5回
がん(転移性脳腫瘍)
開発の背景と標準化の必要性
がん治療の進展に伴い、転移性脳腫瘍患者の生存期間は延長する傾向が報告されており、運動麻痺、高次脳機能障害、精神症状、倦怠感等、多様な症状がQOLや社会参加に深刻な影響を及ぼしています1)。これらの神経症状は、臨床像が脳血管障害と類似する側面もあります。しかし、脳血管障害では発症後の機能回復を中心に評価や介入が進められることが多いのに対し、転移性脳腫瘍では腫瘍の進行や治療の影響により機能状態が経時的に変動しやすい点が特徴です1)。また、転移性脳腫瘍患者では、原発がんの種類や病期、これまでに受けてきた治療(手術、化学療法、放射線治療等)、現在の治療状況、さらに今後の治療予定やBest Supportive Care(BSC)への移行等、背景が症例ごとに大きく異なります1)。脳血管障害とは異なり、がん治療の経過や全身状態を踏まえた症状の理解が求められる場面も少なくありません。しかし、臨床現場では、急性期での作業療法介入が短期間に留まりやすく、ADL中心の評価となりやすいため、長期的な「活動・参加」や就労への追跡評価が不十分であるという課題がありました2)。本アセスメントセットは、文献レビューと専門家合意形成を組み合わせた手順に基づき構築しました。
ICF項目の選定と構築プロセス
本アセスメントセットは、科学的根拠に基づき、以下の手順で構築されました。
文献レビューとリンキング:2003年~2024年の文献から「認知機能」「ADL/IADL」「社会参加」等の項目を抽出し、ICFコードの第2レベルまで(b140注意機能、d850報酬を伴う仕事等)へ関連付け、アセスメントセットを作成しました。
デルファイ調査:先述の案について、医師2名、看護師1名、理学療法士1名、作業療法士 5名、言語聴覚士1名、社会福祉士1名のエキスパートに対し調査を実施しました。「臨床的妥当性」「実施可能性」を評価し、事前に設定した合意基準に基づき、最終的に72項目を採択しました。
図 デルファイ調査の結果、選出されたICFコード
臨床活用:作業療法的介入への展開
本アセスメントセットは診断直後から終末期までの各病期で活用が期待されます。
初期・治療期:手術や化学療法・放射線治療に伴う急性症状や副作用(浮腫、てんかん、倦怠感等)をモニタリングし、ADLや認知機能、住環境の現状を把握して治療の継続を支える作業療法介入や、状態の変化を捉えるための継続的な評価を行います。
再発・終末期:就労やレクリエーション等の「参加」の継続、および家族支援を含めた多角的な調整を行います。特に緩和ケアの場面では、身体・認知機能の低下を補いながら、患者が「大切にしたい活動」を最期まで維持・あるいは代替的な手段で継続できるよう、多職種で共有可能な「作業療法的介入指標」として機能します。
おわりに:今後の展望
本アセスメントセットは、転移性脳腫瘍患者のQOL維持支援を体系化するうえで有用なツールとなることが期待されます。今後は以下の3点を進めていきます。
(1)論文化と公表:本調査結果を学術論文としてまとめ、国内外へ発信する。
(2)手引きの作成:臨床現場で迷わず評価・解釈できるよう、具体的な記載例を含めた活用マニュアルを整備する。
(3)利用の推進とデータ収集:現場での活用を広め、積されたデータを分析することで、がんリハビリテーション領域における作業療法の効果を示していく。
本事業が、転移性脳腫瘍という困難に直面した人々が、最期までその人らしい生活や「意味のある作業」を継続するための支援基盤となることを期待しています。
【参考文献】
1)日本がんリハビリテーション研究会編:がんのリハビリテーションガイドライン 第2版.金原出版,2019,p190-191.
2)Rabinovich, S., & Gauthier, L. V. (2019):Occupational Therapy for Adults With Brain Tumors in the Acute Care Setting. American Journal of Occupational Therapy, 73(4), 7304205040p1-7304205040p9. https://doi.org/10.5014/ajot.2019.030635

