ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第8回 循環器領域(心不全)

本連載では、本会が進める「疾患別作業療法の評価及びプログラムのICFによる可視化と実践の推進」に基づき、各疾患領域における作業療法アセスメントセットの開発状況と活用の方向性を紹介しています。今回は循環器領域のうち心不全を対象とし、ICFに基づく作業療法アセスメントセット開発の背景、方法、現時点での進捗について概説します。

 

 

開発の背景と標準化の必要性

心不全は、息切れ、易疲労感、浮腫といった身体症状に加え、活動量の低下、運動耐容能の制限、抑うつや不安、服薬管理や生活管理の困難さ等、多面的な課題を伴う疾患です。さらに、増悪と寛解を繰り返しやすく、病状や生活機能が経時的に変化しやすいという特徴があります。高齢化の進展や地域包括ケアシステムの推進に伴い、心不全患者に対する継続的支援の重要性はますます高まっています。

心不全患者に対する作業療法では、心機能に配慮しつつ、日常生活動作、家事、移動、外出、社会参加といった生活機能全体を把握し、その人にとって無理のない活動水準を見極めることが求められます。また、再入院予防、在宅生活の継続、QOLの改善という観点からも、心身機能・身体構造、活動・参加、環境因子を含めた包括的な評価が不可欠です。一方で、心不全や循環器疾患に関連するICFの先行研究やコアセット、評価マニュアル等の蓄積はみられるものの、心不全に対する作業療法のアセスメントに特化したICF項目については、これまで十分な検討がなされていません。そのため、実際の臨床では、施設特性や支援場面、経験年数によって評価の視点や重点項目にばらつきが生じやすく、生活機能上の課題の捉え方や、多職種への共有内容にも差が出ることがあります。そこで本WGでは、心不全患者に対する作業療法ICFアセスメントセットの開発を進め、評価の抜け漏れを減らし、支援の質の均てん化を図ることを目指しています。

 

 

開発方法と現時点での進捗

本研究では、専門家の合意形成手法であるRAND/UCLA Appropriateness Methodに準じたデルファイ法を用い、各ICF項目の適切性について反復的に検討を行っています。調査はGoogleフォームで実施し、各ICF項目について「心不全に対する作業療法において最低限必要か」を9段階尺度で評価するとともに、自由記述による修正提案も収集しています。判定は、回答の中央値が7〜9を「適切」、中央値を含む3分位以外の回答数が4以下を「合意」、5以上を「不合意」とする基準に基づいて行いました。パネリストは16名で、医師3名、看護師1名、理学療法士4名、作業療法士8名により構成されています。

項目抽出にあたっては、欧文76件、和文8件の文献レビューに加え、関連ガイドラインおよびICFコアセットとの照合を行い、初期項目として63項目を抽出しました。第1ラウンド終了後には、結果と自由記述を踏まえて見直しを行い、項目数の多さや内容の重複についてWG内で協議した結果、第2ラウンドでは44項目に整理しました。

第2ラウンドの44項目は、心身機能・身体構造14項目、活動・参加24項目、環境因子6項目で構成されています(図参照)。心不全患者の生活機能を多面的に捉え、標準的な作業療法評価の視点を共有するための構成となっています。

  

心身機能・身体構造には、見当識機能、記憶機能、情動機能、高次認知機能、心機能、血圧の機能、呼吸機能、運動耐容能、筋力の機能等が含まれます。活動・参加には、問題解決、意思決定、日課の遂行、移乗、歩行、移動、更衣、食事、健康に注意すること、調理、家事、家庭用品の管理、家族関係、仕事、レクリエーションとレジャー等が含まれます。環境因子としては、日常生活用具、移動・交通のための用具、家族や周囲の人の態度、社会的支援サービス、保健サービス・制度・政策等が挙げられます。

現在は、これまでの結果を踏まえながら各項目の適切性と実施可能性について、さらなる精査を進めています。

 

 

今後の展望

心不全患者では息切れや易疲労感、病状の変動により、入院中には可能であった活動が、退院後の生活では困難となることがあります。そのため、ADLの可否だけでなく、入浴、移動、買い物、通院、服薬管理等の生活行為や自己管理の状況まで含めて、生活機能を系統的に把握する視点が重要です。

心不全患者に対する本アセスメントセットが整備されることで、評価の抜け漏れや施設間のばらつきを減らし、退院支援や在宅生活支援に必要な情報を多職種で共有しやすくなることが期待されます。さらに、支援場面が変わっても生活機能を共通の枠組みで継続的に捉えやすくなり、介入の優先順位づけや目標設定の明確化にもつながると考えられます。加えて、標準化された評価に基づくデータを蓄積していくことで、心不全患者に対する作業療法の効果検証を進め、その有用性を明示していく基盤となることが期待されます。