組織的学術研究報告-統合失調症に対する個別作業療法-

はじめに

統合失調症の支援では、精神症状の軽減だけでなく、認知機能の改善、社会機能の向上、再発予防、地域生活の充実を見据えた個別的かつ包括的な支援が求められています。作業療法士は、対象者一人ひとりの生活に焦点を当て、作業を通じて社会参加の向上を支援する専門職です。しかし、日本の精神科作業療法では、集団での実施が中心となることが多く、対象者ごとの生活課題に応じた個別支援を十分に行うことが難しい場面もあります。

こうした背景から、日本作業療法士協会学術部組織的学術研究班では統合失調症を対象とした個別作業療法(Individualized Occupational Therapy)の有効性を検証しました。

 

 

なぜ今さら個別作業療法なのか

本来、作業療法は個別性を基盤とした実践です。作業療法の対象は、一人ひとり異なる課題を抱えた生活者です。そして、その人らしい生活の再構築を支援することが作業療法の目的です。個別や集団はあくまで形態の違いに過ぎず、治療や支援の成果は常に個人に帰結します。作業療法士には、対象者の状態や生活課題、価値観に応じて、多様な方法を個別に組み合わせながら支援していくことが求められます。

一方、現在の精神科作業療法では、集団プログラムを中心とした実践になりやすい側面があります。しかし、作業療法士が目指すのは、対象者一人ひとりの回復や生活の再構築を支援することです。これまで、個別性の効果については十分に検証されてきたとは言い難い状況がありました。そこで研究班では、作業療法本来の個別性に改めて着目し、その効果を科学的に検証しました。個別作業療法は特別な技法ではなく、その人らしい生活を支援するという作業療法の本質に即した実践です。

 

 

個別作業療法の構成

1.個別作業療法の基本構造

本研究では個別作業療法を、「回復早期の統合失調症入院患者を対象とした介入戦略」としました。作業療法士と対象者が1対1でかかわる時間を設定し、退院後の生活を見据えた目標指向的な支援を進めていきます。対象者ごとの回復段階や生活課題に応じて、支援内容や頻度、時間、場所等を柔軟に修正しながら、支援を個別にマネジメントしていきます。入院治療における個別作業療法の流れをイメージするために、実施例を図1に示しました。

 

2.個別作業療法を構成するプログラム

個別作業療法は、以下の6つのプログラムの構成としました。

(1)動機づけ面接
対象者の価値観や希望を確認しながら、「どのような生活を送りたいのか」「どのような活動が回復につながるのか」をともに整理します。対象者の主体性を尊重し、作業療法の経過や成果を振り返りながら、目標や支援内容を適宜見直し、取り組む課題を明確にすることで治療や作業療法への主体的な参加を促していきます。

(2)セルフモニタリング
早期には身体活動や作業活動を通して身体感覚への気づきを促していきます。また、疲労、ストレス、主観的体験の変化等を振り返り、自身の状態を客観的に理解できるよう支援します。統合失調症では、体調変化や再発サインに気づきにくい場合もあるため、再発予防の観点からも重要な役割を果たします。

(3)訪問支援
入院早期からの病室訪問による離床支援と活動再開に向けた支援を行い、退院前には自宅訪問や地域資源の活用支援、退院前訪問指導等を通して、地域生活への移行を支援します。

(4)クラフト活動
本研究では、認知機能を促進させるトレーニングとしてクラフト活動を利用しました。なかでも、和紙工芸、革細工、プラモデル等、手順が明確で短時間で完成しやすい構成的なクラフト活動を用います。作業療法士は、対象者がクラフト活動の説明書や指示内容を理解し、作業工程を把握し、各種部品を説明図と照合し、認知機能が多用されるようにかかわります。また、正確な作業遂行を指導し、対象者の自己努力と成功体験が得られるよう配慮します。「どのような支援があれば作業遂行が可能となるか」という視点から丁寧な作業指導を心がけ、認知機能を活性化するためのコーチングを通じて、「作業への閉じこもり」を促します。対象者がどこで困り、どのような支援があれば遂行しやすくなるのかをともに整理し、認知機能と日常生活を結びつけていきます。また、疲労への気づきや適切な休息についても学べるよう支援し、休息能力を高めていきます。

(5)個別心理教育
言語的なやり取りが可能になった頃に短時間から開始します。入院前半では、回復過程や休息・睡眠の重要性、治療の流れ等を説明し、不安や疑問を整理します。入院後半では、疾病管理・再発防止プログラムを実施し、クライシスプランを作成します。クライシスプランは、家族や支援者とも共有し、退院後の支援に活用します。

(6)退院時プラン
退院後の生活をイメージしながら、生活スケジュールや利用する社会資源、家族との協力体制等を検討します。退院後のケアプランや行動計画を対象者と作成し、地域生活への円滑な移行を支援します。

 

 

全国多施設共同研究の概要

日本作業療法士協会組織的学術研究事業として、全国14施設による多施設共同研究を実施しました。統合失調症の新規入院患者を対象に、通常の集団での作業療法のみを実施する群(集団群)と、集団に個別作業療法を追加した群(個別群)を比較しました。さらに、退院後2年間の追跡調査を行い、認知機能を含めたアウトカムの変化、改善効果の持続性、再入院率、費用対効果を評価しました。この研究の特徴は、入院中の変化だけでなく、退院後の生活まで視野に入れて評価した点にあります。研究の概要を図2に示しました。なお、本研究では施設間の介入の質を担保するため、実施マニュアルの作成と研究開始前の研修会を実施し、共通した枠組みに基づく個別作業療法の提供に努めました。

 

1.認知機能の改善(Shimada et al., 2024 DOI:10.1016/j.schres.2024.04.018.)

ランダム化比較試験の結果、個別群では、認知機能検査(BACS)の言語性記憶、ワーキングメモリ、言語流暢性、注意機能、遂行機能等の認知機能領域が有意に改善しました。さらに、内発的動機づけ、QOL、社会機能、陰性症状、機能レベルにおいても有意な改善がみられました。また、個別作業療法のクラフト活動の実施回数と認知機能改善との関連が認められました。

 

2.改善効果の持続性(Shimada et al., 2025 DOI:10.7759/cureus.82429.)

退院後2年間の追跡調査では、個別群で認知機能、動機づけ、QOL、社会機能、機能レベルの改善が持続していました。これは、入院中の支援が一時的な改善にとどまらず、地域生活においても効果を発揮していた可能性を示しています。

 

3.再入院予防(Shimada et al., 2025 DOI:10.7759/cureus.82429.)

退院後2年間の再入院率は、個別群で有意に低く、再入院までの期間も長い結果となりました。また、再入院にかかわる要因として作業療法の種別が抽出され、媒介分析によって個別作業療法そのものが、再入院リスクの低減に寄与していることがわかりました。個別作業療法では、再入院にかかわるさまざまな課題をともに整理しながら支援するなかで、「困った時に相談できる」という関係性をベースとした安心感を育んでいきます。そのことが地域生活の継続につながった可能性があります。

 

4.費用対効果(Nagayama et al., 2026 DOI:10.5014/ajot.2026.051323.)

個別群では質調整生存年が高く、総医療費は低い結果となりました。特に再入院の減少による入院費の削減の影響が大きいと考えられ、個別作業療法が臨床的な有効性だけでなく、医療経済的にも有益である可能性が示唆されました。

 

 

個別作業療法をどう臨床で実践するか―個別作業療法を成立させる治療構造―

個別作業療法の内容と研究成果について紹介しましたが、多くの方が関心をもつのは、「自施設ではどう実践すれば良いのか」という点ではないでしょうか。個別作業療法というと、動機づけ面接やセルフモニタリング、クラフト活動等の技法に目が向きがちです。しかし、実際に個別作業療法を実践していくうえで重要なのは、技法だけではなく、それを支える治療構造になります。

作業療法を行ううえでは、「どのような支援を行うか」と同じくらい、「どのような構造で支援を行うか」が重要です。治療構造には作業療法にかかわるあらゆる要素、たとえば時間、場所、作業活動、対象者、作業療法士、関係性、集団、環境等が含まれます。さらに広い視点でみれば、施設の方針、作業療法部門の運営体制、地域資源、社会文化、医療福祉制度等も治療構造の一部と言えます。

対象者の事例検討を行う機会は多くあります。しかし、精神科領域では対象者の事例検討以前に、部門、施設組織、地域支援体制等、「作業療法が実施される状況の事例検討」が必要になることも少なくありません。なぜなら優れた技法があっても、それを実践できる状況が整っていなければ十分な効果を発揮できないからです。

特に重要なのが、担当作業療法士の継続性、つまり個別担当制により、対象者にとって一貫した支援が保証されていることです。個別作業療法では、対象者と作業療法士が継続的に関係を築きながら支援が進みます。そこでのかかわりは一度で完結するものではありません。対象者の生活歴や価値観、強みや苦手を理解しながら、関係を築いていくことが重要です。

しかし、実際の臨床現場では必ずしもそのような体制が整っているとは限りません。たとえば、病棟が複数ある医療施設の場合、転棟に伴って主治医は変わらないにもかかわらず、担当作業療法士が変更となる現象が起こることがあります。運営上は合理的な理由があるのかもしれません。しかし、これは単なる担当変更ではありません。治療構造そのものの変更です。対象者にとって一貫した支援が保証され、対象者一人ひとりの作業療法の責任の所在を明確にするために、担当者の変更の際には、少なくとも対象者を含めての引継ぎの場面を設定し、新旧の担当作業療法士が丁寧な引継ぎを行うことが必要です。個別作業療法を実践するうえでは、対象者と作業療法士が継続的な関係を築ける体制づくりが重要であることは間違いありません。

個別作業療法は対象者一人ひとりの生活に目を向け、その人らしい生活の実現に向けて、必要な支援を柔軟に組み合わせていく実践です。そして、その実践を支えるのは技法だけではなく、個別性を尊重する組織文化や治療構造です。本研究の成果を現場へ普及していくためには、「どのような技法を使うか」だけでなく、「個別支援が成立する治療構造をどう整えるか」も重要であると考えています。

 

 

おわりに

精神科作業療法が入院医療のなかで、対象者の地域移行・地域定着に向けてどのような成果を示せるのかが改めて問われています。本研究は、入院中の個別作業療法が認知機能改善、再入院予防、費用対効果の面で有益であることを示しました。重要なのは、「作業療法だからこそできる支援」が示された点です。対象者一人ひとりの生活に目を向け、その人らしい生活の実現を支援するという当たり前の作業療法を実践していく取り組みについて改めて考えるきっかけとなれば幸いです。