ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第6回 呼吸器領域(慢性閉塞性肺疾患:COPD)

開発の背景と標準化の必要性

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は気流閉塞に加え、筋力低下や精神症状等、多面的な併存症を伴い、社会参加やQOLを著しく阻害します。ガイドライン1)では身体活動性やQOLの評価が重視されており、「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」2)や「呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法-第2版」3)においては、生活背景に即した生活機能評価の中核を担う職種として作業療法士が位置付けられています。しかし、実際の作業療法現場では標準化された評価手法が未整備であり、介入が限定的なADL指導に留まる等、継続的なセルフマネジメント支援への課題がありました。そこで、「心身機能・活動・参加・環境・個人因子」を一貫して評価できる枠組みを確立し、質の高い作業療法を提供すべく本アセスメントセットを開発しました。

 

 

ICF項目の選定プロセス

本アセスメントセットは、科学的根拠に基づき以下の手順で選定されました。まず、2003年から2024年までの国内外の文献やガイドラインを網羅的に調査し、COPD特有の生活障害に関連する要素を抽出しました。これらをWHOの「ICFリンキングルール」に基づき、「b440 呼吸機能」や「d640 家事」といったICF第2レベルコードへ厳密に関連付けました。次に、多職種の専門家11名によるエキスパートパネルを構成し、計3回のデルファイ調査を実施しました。9段階のリッカート尺度を用い、「適切性(中央値7.0以上)」および「合意の形成(回答のばらつきが一定以下)」という厳格な採択基準を適用。専門家間の意見を集約・修正し、最終的な評価項目を確定しました。こうして選定された項目群は、急性期から終末期まで全病期に対応しており、臨床現場において一貫した運用が可能な設計となっています。

図 COPDに対するICF作業療法アセスメントセット

 

 

臨床活用:作業療法介入への展開

●急性期

 身体機能およびADLのベースラインを評価することで、作業療法計画の強固なフレームワークを構築します。多職種に対し、作業療法の視点から具体的な活動範囲や環境調整の指針を提示し、早期離床や合併症予防等、早期回復に向けたリスク管理に寄与します。

●回復期

 治療に伴う機能変化や薬剤の副作用、心理的影響を経時的に評価します。ADL動作の効率性や「活動・参加」レベルの変化を継続的にモニタリングすることで、退院後の生活に即した作業療法プログラムの立案・調整を可能にします。

●生活期・終末期

 生活期では、個人の生活の文脈に基づいた「意味のある作業」の継続とセルフマネジメントに焦点を当て、身体活動性の維持と急性増悪の回避を目指します。高度な呼吸不全を伴う終末期においても、環境・個人因子を統合的に整理し、呼吸困難を最小限に抑えつつ最期まで望む活動を支える「介入マップ」として、患者・家族・チームが共通目標を構築するための土台となります。

 

おわりに:今後の展望

本アセスメントセットは、COPD患者の身体活動性やQOL向上をはじめとした多面的なアウトカムを可視化し、作業療法の専門性を客観的に示すための重要な基盤となります。今後は本事業をさらに発展・定着させるべく、以下の3点を中心に取り組んで参ります。

(1)学術的発信と普及

 本アセスメントセットの構築プロセスおよび調査結果を学術論文としてまとめ、国内外へ広く発信します。根拠に基づいた作業療法の標準化を推進し、領域全体の質の向上に寄与します。

(2)手引きの整備

 臨床現場の療法士が迷わず評価・解釈を行えるよう、手引きを整備します。これにより、経験年数を問わず一貫した精度の高い評価を可能にします。

(3)実装とアウトカムの可視化 

 臨床現場での活用を促進し、蓄積されたデータを分析することで、呼吸器疾患に対する作業療法が身体活動性の維持・向上やQOL向上に与える影響を明示します。これにより、作業療法介入の有効性を社会的に立証していきます。

 

本事業が、COPDの方々が住み慣れた地域でその人らしい生活を継続し、健康寿命を延伸するための確かな支援基盤となることを切に願っております。

 

【参考文献】
1)日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会編:COPD診断と治療のためのガイドライン第6版.メディカルレビュー社,2022.
2)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,他編:呼吸リハビリテーションに関するステートメント,2018.
3)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会編:呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法- 第2版,照林社,2012.