ICFに基づく疾患別作業療法アセスメントセットの開発 第7回 脳血管障害(脳卒中)

開発の背景と標準化の必要性

脳卒中は、我が国における要介護状態の主要な原因の一つであり、運動麻痺や感覚障害に加え、高次脳機能障害、失語症、半側空間無視等、多様な障害を呈します。これらの障害は日常生活動作(ADL)のみならず、家事、就労、地域活動等の社会参加にも大きな影響を及ぼします。

作業療法では、身体機能のみならず活動・参加や環境因子を含めた包括的な生活機能評価が求められます。しかし、脳卒中に対する作業療法評価は施設や病期によって使用される評価項目が異なり、共通して活用できる評価体系は十分に整備されていませんでした。また、脳卒中診療は急性期、回復期、生活期にわたって継続されるため、病期横断的に活用可能な共通評価基盤の構築が求められています。そこで、本事業では、ICF(国際生活機能分類)を共通言語として、脳卒中に対する作業療法アセスメントセットの開発を行いました。

  

 

ICF項目の選定と構築プロセス

本アセスメントセットは、科学的根拠および専門家合意形成に基づき構築しました。

まず、脳卒中治療ガイドライン、ICF Core Set、国内外の関連文献および作業療法実践報告をレビューし、脳卒中に関連するICFコードを抽出しました。さらに脳血管障害ワーキンググループによる協議を重ね、身体機能・構造、活動・参加、環境因子からなる候補項目を作成しました。その後、専門家パネルによるRAND/UCLAデルファイ調査を実施しました。エキスパートパネルは、脳卒中診療およびリハビリテーションに精通した医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の計12名で構成し、多職種の視点から評価項目の妥当性について検討しました。

調査はRAND/UCLA Appropriateness Methodに基づき、各ICF項目について9段階尺度による評価を行いました。デルファイ調査は3ラウンド実施し、各ラウンド終了後に結果をフィードバックするとともに、自由記載による意見を踏まえて項目の修正・統合を行いました。評価の適切性は中央値および合意状況を用いて判定しました。その結果、身体機能・構造23項目、活動・参加21項目、環境因子10項目の計54項目が採択されました。

身体機能・構造では、意識レベル、見当識機能、意欲、注意力、記憶、高次認知機能、言語理解、非言語的コミュニケーション、筋力、筋緊張、共同運動等が選定されました。活動・参加では、読むこと、書くこと、会話、物をつかむ、物を操作する、歩行、車椅子利用、入浴、更衣、食事、買い物、調理、家事、金銭管理等が採択されました。環境因子では、住環境、家族支援、リハビリテーションサービス、社会保障サービス、障害者雇用支援システム等が含まれました。

本アセスメントセットの特徴は、脳卒中患者の生活機能を身体機能のみで捉えるのではなく、認知機能やコミュニケーション機能、活動・参加、さらには環境因子まで含めて包括的に評価できる点にあります。また、多職種12名による3ラウンドのRAND/UCLAデルファイ調査を経て構築されたことにより、臨床的妥当性と実践的有用性の向上が期待されます。

図 デルファイ調査の結果、選出されたICFコード(54項目)

 

 

臨床活用:作業療法的介入への展開

本アセスメントセットは、急性期から生活期まで一貫して活用できることを特徴としています。

急性期では、意識機能や注意機能、基本動作能力を把握し、早期離床や退院支援に向けた課題抽出に活用できます。回復期では、ADLやIADL(手段的日常生活動作)だけでなく、就労や社会参加を見据えた目標設定や介入計画の立案に活用できます。また、高次脳機能障害やコミュニケーション障害を含めて評価することで、より包括的な生活再建支援につなげることが可能となります。生活期では、地域生活や社会参加の継続状況を評価し、生活機能の維持・向上を支援するための指標として活用できます。さらに、環境因子を含めた評価により、住環境調整や社会資源の活用、就労支援等、多面的な介入計画の立案にも寄与します。

また、本アセスメントセットは身体機能のみならず、認知機能、コミュニケーション機能、環境因子を含めて評価することで、多職種間における情報共有や意思決定を支援する共通基盤となることが期待されます。

 

 

おわりに:今後の展望

本事業により、脳卒中に対する作業療法評価に必要な54項目のICFコードが整理されました。

本アセスメントセットは評価項目を画一化することを目的としたものではなく、急性期から生活期まで一貫して活用できる生活機能評価の共通基盤を提供するものです。今後は、各ICFコードに対応する評価指標および介入プログラムとの関連付けを進めるとともに、全国規模での実地検証を実施する予定です。さらに、多施設共同でのデータ蓄積を通じて、脳卒中領域における作業療法アウトカムの可視化とエビデンス創出につなげていきたいと考えています。

 

【参考文献】

1)日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕.

2)World Health Organization:International Classification of Functioning, Disability and Health(ICF).WHO,Geneva,2001.

3)一般社団法人日本作業療法士協会:作業療法ガイドライン(2024年度版),2024.

4)Fitch K, Bernstein SJ, Aguilar MD, et al.:The RAND/UCLA Appropriateness Method User's Manual. RAND Corporation, 2001.