誰もが主役になる多様な協会を目指して
はじめに
日本作業療法士協会が“舞台”だとしたら、その“主役”とは誰でしょうか。会長・副会長や理事といった役員および理事会でしょうか? たしかに理事会とそれを構成する理事は、選挙で選ばれ、協会の方針や施策を議論・決定する役割を担っています。また、会長は理事のなかの代表であり、協会を代表する人ではあります。しかし、“主役”というわけではありません。つまり、協会の“主役”は、協会に参加し構成する一人ひとりの会員です(もちろん会員には、理事や代議員も含まれています)。本会は入会している「誰もが主役」の組織であるべきなのです。
本会は誰もが安心して作業療法士として働き、学び、成長し続けられるために、多様な意見を反映するための多様な組織づくりを目指しています。本稿では、この「誰もが主役 多様な協会へ」というスローガンを実現するために、現在本会が行っている活動、特に会員の皆さん一人ひとりの声をできる限り反映した協会とするために導入された「クオータ制」を中心に紹介していきます。あなたの大切な言葉や行動が未来の私たちを後押ししてくれます。そして あなたの日々の経験こそが協会活動には必要です。ぜひ一緒に、作業療法士の未来を創っていきませんか?
「誰もが主役 多様な協会へ」 特設ページはこちら

「誰もが主役 多様な協会へ」ロゴマーク。輪を成す色やかたちの異なるキャラクターたちは、年齢・性別・働く場所や領域もさまざまな作業療法士たち。多様な私たちが協働していくさまを表現しています
クオータ制とは何か
1)多様性を確保する第一歩
2025年度の本会会員の年齢層別の割合は21~30歳が30.0%、31~40歳が34.5%、41~50歳が25.2%、51~60歳が8.4%、61歳以上が1.7%と、さまざまな年齢層の作業療法士が入会しています。会員の働いている場所もさまざまです。『作業療法白書2021』によると、病院等の医療関連施設で働く作業療法士が48.6%と依然として多いものの、介護関連施設(13.3%)や障害関連施設(2.5%)、児童発達支援センターや放課後等デイサービス等で働く会員も増えつつあることが示されました。今後、作業療法士の職域や働き方はさらに多様化すると思われます。
このように「作業療法士」と言っても千差万別。本会の活動も一部の作業療法士の意見によって運営されるべきものではなく、できるだけさまざまな視点から多様性を捉え、多様な意見を反映した運営をしていかなければなりません。そこで、多様性に満ちた会員の視点に立った会員のための協会活動を実現するための第一歩として、本会は「クオータ制(quota system)」を導入しました。本来、クオータ制とは人種や性別、宗教等を基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度のこと。この制度を多様な会員構成を反映した組織づくりの端緒とします。
2)本会におけるクオータ制は何に適用されるか
一般的に、意思決定の場において少数派が無視できない影響を及ぼすようになる分岐点を「クリティカル・マス」と言い、世界的に見て30%がその基準的な数値であるとされています。つまり、特定の属性が30%以上を占めることが多様性に配慮した組織として必要な条件だということです。
しかし、一人の会員はさまざまな属性をもっています。性別、ジェンダー、居住地、人種・民族、家庭環境、職場でのポジション等々、数え上げればキリがありません。これに対して、本会はまずジェンダーという属性から始めることとしました。『第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~』によれば、政府はジェンダーに着目し、指導的地位に占める女性の割合が2020年代早期に30%程度となるよう取り組みを進めています。2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指しており、人材登用や育成における取り組みを強化する必要があると述べています。そこで、本会もこれに倣い、ジェンダーバランスの取れた組織をつくっていくために、まずは役員選挙でクオータ制を導入することとしました。
本会の会員における性別割合は、データのある1987年以降、男性30%台、女性60%台で推移しています。一方、役員における女性割合は、設立の1966年は77.8%でスタートしたものの、1973年以降は50%前後で推移、1987年からは40%以下となり、2009年からは20%前後の推移となっています。このような状況に鑑み、2025年度の役員改選において「ジェンダーに着目した候補者クオータ制」(以下、候補者クオータ制)を導入しました。さらに、それ以降の役員改選では「ジェンダーに着目した当選者クオータ制」(以下、当選者クオータ制)の導入を目指していきます。また代議員改選においても候補者クオータ制を2027年度に導入することが、今年度の定時社員総会で承認されました。
3)候補者クオータ制導入の結果
役員選挙の候補者クオータ制は、立候補者の性別が理事においては定数24名に対して男女ともに30%、つまり男性8名以上、女性8名以上、監事においては定数3名に対して男性1名以上、女性1名以上になるようにしました(図参照)。その結果、理事選挙立候補者は31名で男性20名、女性11名、監事選挙候補者は3名で男性2名、女性1名と、候補者クオータ制の規定数を満たすこととなりました。
引き続き候補者クオータ制の規定数を満たしつつ、今後は当選者クオータ制(当選者が男性8名以上、女性8名以上になるようにする)の導入を目指していきます。

図 本会役員選挙における候補者クオータ制
ところで、社員総会は本会の意思決定の最高機関ですから、これを構成する代議員もまた多様な属性を反映した顔ぶれになることが望まれます。先述したように、今年度の定時社員総会で承認された代議員選挙における候補者クオータ制の骨子は、次のようになっています。
・各都道府県選挙区において、候補者のいずれの性別においても全候補者の30%未満とならないよう確保する。
・上記基準を満たさない場合、不足する性別の候補者数を補完するために、選挙管理委員長は、当該選挙区の正会員のなかから追加候補者を選定する(または、当該選挙区の作業療法士会へ推薦候補者の選定を依頼することができる)。
・候補者総数が定数を超えることは妨げない。
もちろん立候補者規定数を達成することが、クオータ制の目的ではありません。しかし、「立候補してみよう!」と考える人が増えれば増えるほど、本会の多様性は具体的に表現されていくことでしょう。あくまでそのための目安がクオータ制なのだとお考えいただき、奮って立候補していただければ幸いです。
多様な会員が協会事業に参加できるように~働き方の見直し
候補者クオータ制が導入された2025年度役員改選を経て、今期初めて理事を経験されるという方も増え、体制が変化したことで、定例理事会では協会運営や協会催事等についても、新たな発想や多様な意見を取り入れた議論がなされるようになりました。しかし、今後もさまざまな背景をもった方が協会の事業に積極的に参画できるようにならなければなりません。そのために必要なのが、ワークライフバランスへの配慮です。
会員の皆様がそれぞれ本務をもち、家庭での役割があります。学びや趣味等のために、プライベートの時間も十分に確保しなければなりません。ここに加えて、協会活動に参画して時間とエネルギーを割くことにはハードルもあります。
そこで、非常に多くの役割を担うことになる理事の働き方をまずは改善し、引いてはワークライフバランスに配慮した活動のあり方を協会全体へと波及させていきたいと考えています。具体的には、2025年度新任理事に対して初めて研修を実施しました。研修を通じて、協会事業がどのように実行されているのか、課題は何か、そしてそれらに対して理事はどのような役割をもつのかを学びながら、新理事と会長・副会長、理事同士でのコミュニケーションを取りやすい雰囲気をつくることで心理的安全性が高く多様性が確保され、本務や生活と両立しやすい理事会づくりが目指されました。また、定例理事会の前に多数の資料を効率よく確認し、充実した議論ができるよう、理事会資料の資料クラウド共有システムを導入する等、事務作業軽減のためのIoT活用も推進しています。
さらに多くの会員属性へ
クオータ制ではジェンダーに着目しましたが、配慮すべき属性はまだほかにもあります。
「ライフステージの変化が著しい20~30代の女性会員の退会率が相対的に高い」という課題を考えるために立ち上がったプロジェクトとして、「かがやきプロジェクト」があります。昨年度、オンラインイベントと対面イベントを実施し、20~30代女性会員を中心とした会員同士の横のつながりを構築し、エンパワーメントを図るべく、昨年度、試験的にオンラインイベントと対面イベントを実施しました。ジェンダーこそ「女性」に着目していますが、同時に年齢層という属性も重視した取り組みとなっています(同プロジェクトでは、趣旨に賛同してくださる団体から企画を募集しています。詳しくはこちらをご参照ください)。
また、性的マイノリティに対する事業として、2024年度には「LGBT+グッドプラクティスガイドライン:日本の作業療法士のための翻訳改訂版」を策定しました。学術部 LGBT+ガイドライン班が2023年に行った調査では、臨床で働く作業療法士の約4割が「対象者や同僚には性的マイノリティはいない」と回答している一方で、自分自身が性的マイノリティであるかという設問には学生で10.5%、作業療法士で6.7%が該当すると答えていることから、「性的マイノリティとは出会ったことがあるものの、その存在にさえ気づいていなかった」可能性が示唆されています。さらに作業療法の実践のなかで性的マイノリティの対象者に配慮した経験がある作業療法士は、6.5%いました。このガイドラインには基礎的な知識、日本社会の現状、実践での留意点、ケーススタディ等が掲載されています。ぜひご一読ください(「LGBT+グッドプラクティスガイドライン」はこちら)。
おわりに
どのような背景をもつ会員であっても協会の活動に参加しやすいこと、活動を継続しやすいこと、安心安全に活動できること――それは役員だけでなく、各部署の部員・室員、常設・特設委員会の委員、事務局員も同様です。今は役員が範として多様性とワークライフバランスの確保を進めている段階ですが、協会にかかわるすべての人が“主役”として参加できるように、今後もさまざまなアイデアを活かしながら取り組みを進めて参ります。

